メタボリックシンドロームと国際肥満学会最高賞
2006年9月オーストラリアのシドニーで開催された国際肥満学会で松澤佑次大阪大学名誉教授が8人目のヴィレンドルフ賞受賞者となられた。松澤先生は内臓脂肪症候群の概念の確立とアディポネクチンの発見で受賞された。欧米人以外で初の受賞という快挙である。
ヴィレンドルフ賞はオーストリアで見つかった肥満女性の偶像からつけられた名前で、科学者がノーベル賞を目指すように、肥満研究者が目指す国際肥満学会で最高の栄誉にあたるものである。
南カリフォルニア大学のブレイ先生(米国)が最初の受賞者で、いずれの受賞者もメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の病態、診断、治療に関与し、貢献されている。私は幸運にもヴィレンドルフ賞を受賞された全ての人とお会いでき、8名の受賞者から多くのことを学ぶことができた。
1998年に6人目のヴィレンドルフ賞を受賞された米国のスタンカード先生は、1957年に夜食症候群を提唱され、肥満者は夜遅く食べ、翌朝食べないという悪い生活習慣を持っていると指摘されている。約50年前から肥満の行動療法を始めた人で、平成20年から始まる健診・保健指導のメタボリックシンドロームに対する行動変容の基を創った人である。
スタンカード先生は1946年から1年半軍医として巣鴨拘置所に勤務され、東条英機の肺炎をペニシリンで治療するなど日本と関わりが深い。中国禅に深い関心を持つ東洋文化の理解者でもある。日本の歌もよく知っておられた。神戸のカラオケスナックに行った時も「りんごの歌」と「支那の夜」を暗記しておられ、英語ではなく日本語で上手に唄われた親日家である。
スタンカード先生は著書「肥満と苦悩」の中で「医学や科学の分野では期待が重要である。ノーベル賞受賞者の3分の2は、他のノーベル賞受賞者の下で働いた経歴がある。活気のあるしっかりとした研究室でカリスマ的な指導者に恵まれることが、若い研究者の心を捉えることもあるが、それ以上に、偉大な研究者が部下によりよい研究成果を挙げるよう期待をかけることが大きい」と述べられている。
日本発のオリジナルな研究が行われ、2人目の日本人ヴィレンドルフ賞が出ることを期待している。