内臓脂肪型肥満の発見とイノベーション25

2007年2月 7日

 平成18年10月26日第1回イノベーション25戦略会議が黒川清座長のもと行われた。イノベーションとは「全く新しい技術や考え方を取り入れ、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすこと」である。

 医療、IT、エネルギー、ロボットなど多方面にわたり、20年後の2025年の社会を見すえたもので安倍内閣では担当大臣までおかれている。異端な考えが重視され、GDPの増加に結びつけるという。

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 1980年5月からCTスキャンを用いて脂肪組織の測定を始めた。極めて異端である。CT像は内臓脂肪型肥満の最初の症例で、背中皮下脂肪の中にある斜めの直線は、同級生だった高知県土佐高校出身の池添潤平愛媛大学放射線科教授が大阪大学時代に引いたものだ(Tokunaga K, Matsuzawa Y, et al: Int J Obes 7:437,1983)。

 亡き池添潤平君が「これを見たら、世界中の人がびっくりするで!」といつもの低い渋い声をして目を細めて言った。同級生というものは有りがたいものである。CTスキャンがなかなか使えなかった時代、早朝か夜間撮影してくれた。

 最初は好奇心から始まったものが、唯一松澤佑次住友病院長が認めてくださり、肥満をサイエンスとし、内臓脂肪症候群の概念を確立された。アディポサイトカインの発見がなかったら、単なる形態学的な興味に終わっていただろう。

 若い人の中には、内臓脂肪型肥満は1988年米国のスタンフォード大学リーヴン教授の「シンドロームX」や、1989年米国テキサス大学カプラン教授の「死の四重奏」の欧米由来と思っている人がいるらしい。
 内臓脂肪型肥満の症例はリーヴン先生が論文にする5年前に、既に発表している。内臓脂肪と合併症との関連については藤岡滋典日本生命健康管理所所長が1987年に発表している(Fujioka S, et al: Metabolism 36:54,1987)。内臓脂肪型肥満は欧米の後追いではない。

 考えてみると私が大学時代に行った研究は、標準体重の確立にしても内臓脂肪型肥満の発見にしてもGDPの増加に直接結びつかないものだった。科学研究費を得るには肥満に関する研究は鬼門と言われ、15年間で1100万円しかなかった。
 米国南カリフォルニア大学で私が作成したPVN(食欲の中枢)破壊肥満ラットの研究には、NIH(米国国立衛生研究所)から1年6000万円、5年間で総額3億円の研究費が出た。

 内臓脂肪型肥満は幸い取り上げられたが、異端の芽はあっても多くの異端は日の目を見なかったのではないだろうか。イノベーション25では、GDPの増加には直接結びつかなくても、将来大きな社会的、精神的な変化になる異端の芽を見抜き、研究費など援助する確かな目が必要である。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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