ダイエット番組とへき地医療
ダイエット番組は健康のため必要だ。「ダイエットは食事量を減らして、運動をする」ただ、それだけのことだが、それでは視聴率がとれない。ダイエット番組が多すぎる。
平成18年8月7日東京から「発掘あるある大事典Ⅱ」が取材に来た。仕事をてきぱきとする感じのいいディレクターと実直そうなカメラマンだった。仮題は「内臓脂肪総点検」で内臓脂肪を減らす食事を聞かれた。
「一番大切なのは全体の量、カロリーを少なくすることです。内臓脂肪が増えないよう緑黄色野菜を多く摂って下さい」と言った。「そのことは視聴者の方はみなさんご存じです。個別の食材で答えて下されば、ありがたいのですが。大豆とか酢とか」
大豆は内臓脂肪を減らすというデータはないが、アディポネクチンを増やすという論文がある。酢が内臓脂肪にいいという根拠はない。私は「酢は書けない」と言い、「大豆と旬の食材であるトマトと海藻」を書いた。
平成18年8月27日「発掘あるある大事典Ⅱ」が放送された。タイトルは「メタボリックシンドロームの恐怖 内臓脂肪は簡単に落とせる」となっており、医師4人が出演していた。「4人のみなさんが大豆と酢を勧められています」私は酢は書いていなかったのに。酢を飲んでも害はないと思った。
平成19年1月7日「食べてヤセる!食材Xの新事実」で納豆が売り切れ、社会現象になった。1月20日関西テレビが番組内容について事実と異なる内容があること認め謝罪し、大騒動になった。
平成19年2月7日新聞社から取材があった。私の所まで取材が来るとは思わなかった。平成19年2月8日朝刊に「酢も事実歪曲か 内臓脂肪減3研究者否定」の記事が載った。
私は書きたいものを書きたくなった時に書いている。締め切りはない。番組は限られた期間で、視聴率を稼ぐ番組を作らなくてはならない。大変だろう。自由な時間で自由な発想で番組を作成すれば、もっといい番組ができるだろう。
最近同窓会に行くと、黙祷から始まることが多い。若い頃、黙祷はセレモニーだと思っていたが、最近は自然と両手が合うようになり故人を忍ぶようになった。
森田宗隆君は大阪大学時代の同級生で、大学時代には穂高や上高地にいっしょに旅行した。奥さんも山で知り合った人だ。大学時代の成績はよかったが、世の中を渡るには不器用な男だった。どこの病院に行っても強すぎる正義感から上司と衝突したようだ。
私が大阪大学病院勤務時代、信州の無医村にいる森田君を訪ねて行った。田んぼの中にぽつんと診療所と幼稚園があった。本棚には英語の医学雑誌「New England Journal of Medicine」と「 Circulation」が最新号までそろえてあった。
夜、停電になった。ろうそくの灯りの中で話し込んだ。「こんな僻地で英語の雑誌を読んで役に立つのか」彼は眼鏡の奥の目を輝かせて言った。「僻地でも最新の知識を持って診療する。当然だろ」
ある日、彼から電話があり、体調がよくないので病院を紹介してくれという。病状はあまりよくなかった。「もう、仕事を止めたらどうか」彼は言った。「無医村で最後の日まで、診療をつづける。それで僕はいい」死ぬ覚悟をして、無医村で診療をつづけた。
「僻地でも高い志と、最新の知識を持って、命の灯火が消えるまで診療を行っている医師達がいる」そういう番組があってもいい。