腹囲測定と自己申告
メタボリックシンドロームは内臓脂肪の蓄積によって糖尿病、高脂血症、高血圧を合併し、心筋梗塞や脳梗塞を起こすシンドローム(症候群)である。原因である内臓脂肪の蓄積を改善することによってメタボリックシンドロームを予防、治療することができる。基盤である内臓脂肪蓄積の基準値は腹部CTスキャンで内臓脂肪面積100cm2、臍の高さの腹囲が男性で85cm、女性で90cmとなっている。
平成19年3月7日今朝の新聞に「厚生労働省の検討委員会は3月6日メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の検査のため、職場で実施する定期健康診断に腹囲(へそ回り)の測定を加えるべきだとする報告書をまとめた」と載っている。
「腹囲測定については対象者の協力を得やすいように、自己申告や着衣のままの測定など運用を柔軟にすることが望ましい」としている。素肌を見られるのが嫌な人もいるだろうし、誤差も少ないので着衣のままの測定はいい。しかし、自己申告ほど当てにならないものはない。
私は大阪大学病院時代、外来患者さんの体重を自己申告で行っていた。ある日、体重計を診察室に入れ、自己申告後、目の前で体重を測定してもらった。12人中正直に体重を言っていたのは2人だけで、残りの10人83%の患者さんは実際の体重より2kgから最高11kgまで少ない体重を自己申告していた。それ以来、私は診察室に体重計を置き、目の前で体重を量ってもらっている。
腹囲は自己申告で本当によいと考えている人は人間の本質を知らない。人は「他人に迷惑をかけない、自分の良心が痛まない、後でわかっても罰せられない嘘」なら簡単につきやすい。何も罰則規定を設けなかったら、多くの人は自分をよく見てもらおう、あるいは保健指導を受けたくないと、自分の腹囲を過小申告するだろう。
平成20年4月から開始される健診・保健指導で、健康保険組合の財政は厳しくなるのではと悲鳴をあげている。血液検査の必須項目も10項目から尿酸とクレアチニンが減り、空腹時血糖またはHbA1cのどちらかとなり、7項目となった。健康診断に使える財源は限られている。
三国志の劉備には諸葛亮孔明が、太閤記の豊臣秀吉には竹中半兵衛がいた。
秦の始皇帝には話が流暢でない韓非子が、武田信玄には足の不自由な山本勘助がいた。
東の曇り空を見上げ国を想い、西の空を仰いで故郷を想う。
都心の繁華街は賑わい、田舎の商店街はシャッターをおろす。
平均寿命は伸びたが、医療制度は疲弊している。
我が国には優先順位がわかる名参謀はいないのか。腹囲の測定はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群の)診断の基本である。腹囲測定が経済的負担増になるなら、血液検査項目や保健指導の時間を削ってでも、腹囲測定は自己申告ではなく医療者が行なうべきだと私は考える。