脂肪細胞増殖型肥満と雇用問題

2007年3月20日

 肥満は脂肪細胞の大きさが大きくなった脂肪細胞肥大型肥満と脂肪細胞の数が増えた脂肪細胞増殖型肥満に分類される。1960年代後半、米国ロックフェラー大学のハーシュ教授らが提唱したもので、この分類によって肥満学が内分泌学から独立した。

 脂肪細胞肥大型肥満は成人発症の肥満に多く、代謝異常を伴いやすくメタボリックシンドローム(内臓脂肪蓄積、糖尿病、高脂血症、高血圧)と関連が深い。脂肪細胞増殖型肥満は幼少時からの肥満に多く、代謝異常は少ない。脂肪細胞の数も増えていないと、100kgを越す肥満にはならない。

 140kgの肥満者が入院してきた。幼少時からの肥満で全身の脂肪細胞の数が3倍と著しく増えていた。その後外来通院をつづけ60kg減量し、80kgとなった。86kgの時の脂肪細胞の大きさは直径86μm(正常70~90μm)と縮小し正常範囲になっていた。

 脂肪細胞の大きさはお腹の皮下脂肪の部分に太い針を入れ、脂肪を吸引する。脂肪を凍らせて150μmの切片を作り、顕微鏡で100個の脂肪細胞の直径を測り、平均値を出す。脂肪組織はマッチ棒の先の10分の1もあれば測定できる。

 その人の脂肪細胞の大きさは普通の人と同じになっている。脂肪細胞の働きは脂肪細胞が大きくても小さくてもよくない。これ以上痩せるのは難しいし、脂肪細胞が小さくなりすぎると健康を害するかもしれない。

 「通常勤務可能と認める」という診断書を書いたが、次に来院したとき「完全に肥満が治ってから職場復帰するように」と上司に言われたという。仕事に復帰しようと、どんなに辛い思いをしながら、この何カ月間を過ごしたことだろう。長期間低カロリーに耐えた人間だ。職場復帰すれば普通の人以上に頑張って仕事をするだろう。

 私は「脂肪細胞増殖型肥満でこれ以上痩せるのは難しいと私の方から上司に言ってあげようか。それでもだめなら働く権利を主張したらどうか」と聞くと、その人は「会社に就職する時に仲介してくれた人に悪いので、上司には逆らえない」と言った。その後、私の外来に姿をみせなくなった。自暴自棄になって太ってはいないか心配だ。

 20歳代の101kgの女性が入院してきた。彼女の夢は宝石店に勤めることだった。宝石店に面接に行ったところ「太っているので、痩せてから来てください」と断られたので、どうしても痩せたいと言う。彼女も脂肪細胞増殖型肥満で脂肪細胞の大きさを普通の人以下にしないと体重は減らない。女性を傷つけない上手な断り方はないものか。

 脂肪細胞肥大型肥満は食事と運動による努力によって痩せることが可能だが、脂肪細胞増殖型肥満では脂肪細胞をより小さくしないと普通の体重にならない。脂肪細胞増殖型肥満は並の努力では普通の体重にするのは難しいし、必ずしも普通体重にする必要はない。このことを雇用者は考慮してもらいたい。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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