腹囲基準と内臓脂肪面積
2007年5月23日ホテルメトロポリタン仙台で、日本糖尿病学会評議員の立食パーティーがあった。仙台の牛タンはどの店も旨いとは限らない。ホテルの牛タンは美味い。牛の舌の形をしている。
炭火の上に20枚並べ、赤みが消える直前の牛タンを4枚重ね、左右対称に2つに切り、皿に移す。同じ動作を繰り返している。一枚一枚、目を離さないで焼いている。
「この牛タンは柔らかくて、美味いですね」知り合いの先生に言われた。「外国から来た腹囲を基準に、内臓脂肪面積を決めたと思っている人がいますよ。合併症から内臓脂肪面積の基準を決め、内臓脂肪面積から腹囲の基準を決めたことを知らない人がいる」
無理もない。2005年4月のメタボリックシンドローム診断基準の表は、腹囲の下に内臓脂肪面積が記載してある。メタボリックシンドロームはカタカナだから外国から来たと思っている。最初の内臓脂肪蓄積の基準は25年前、1982年の内臓脂肪面積200平方センチ以上だ(徳永、松澤他:第3回肥満研究会記録p130、1982)。今の研修医が生まれた頃にできた。その後、変遷していった。
腹囲についてはWHO(世界保健機関)が1997年、BMI30を基盤とした男性102cm、女性88cmの基準を出した。これは日本人には当てはまらない。内臓脂肪を基盤とした腹囲基準を検討することになり、私が担当者となった。内臓脂肪面積が大きくなればなるほど高血糖、高脂血症、高血圧の危険因子の合併が多くなっていた。内臓脂肪面積と腹囲は相関しており、内臓脂肪面積が100平方cmに当たる腹囲は女性で値が大きくなっていた。女性では皮下脂肪が多いため同じ内臓脂肪面積では腹囲が大きくなる。
1998年9月22日の厚生労働省班会議(松澤班)で内臓脂肪蓄積の基準値について、私はCTスキャンによる測定では内臓脂肪面積100平方センチを、簡便な腹囲による方法では男女とも88cmを提案した。WHOのように男性と女性で分けるのなら腹囲は男性86cm、女性92cmとした。
1999年全国34施設で調査が行われ、1999年12月13日の肥満症診断基準検討委員会で内臓脂肪面積基準は男女とも合併症が増える100平方センチ、腹囲基準は内臓脂肪面積100平方センチに当たる男性85cm、女性90cmが提案され、採用された。
基準値はあくまで目安である。これ以上だから病気、未満だから健康というものではない。腹囲が数cm減少すれば代謝異常は改善する。腹囲が増えつつあるのか減りつつあるのか、気にすることが最も重要なことなのだ。