赤ひげ先生とメタボリックシンドローム

2007年8月 7日
 2007年8月5日、スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作「トランスフォーマー」を観に行った。封切り2日目で、ほとんどが20歳代のカップルだった。夫婦50割引で1人1800円が1000円と低価格なのに年配者はおらず、私達が最高齢かもしれない。

 スピルバーグはジョージ・ルーカスと同じく、私が留学した米国ロサンゼルス市にある南カリフォルニア大学出身だ。スピルバーグとルーカスがよく行くという寿司屋が、私の住んでいたグレンデール市に隣接するバーバンク市にあった。何回か寿司を食べに行ったが、出会うことはなかった。

 私の小、中学生時代はテレビも普及しておらず、先生に引率され学校からぞろぞろ歩いて「ラッキー劇場」や「新栄座」(広島県庄原市にあった)に映画を観に行った。スピルバーグが影響を受けたとされる黒澤明監督の「用心棒」「椿三十郎」「天国と地獄」や、三船敏郎と加山雄三が出演した「赤ひげ」も印象に残っている。

 赤ひげの映画を観たときは、一生赤ひげ先生のようになれると思っていたが、現実は違う。大部分の医師は加齢とともに、体力が衰えていく。若い頃は、当直で患者さんの命を取り止め夜明けを迎えると、すがすがしい気分になったものだ。40歳代後半になると、翌日まで疲労が残るようになった。赤ひげ先生は何歳まで、あのような昼夜を問わない診療をつづけることが出来たのだろうか。

 山本周五郎は時代考証がよくできた作家だとされている。昭和33年に執筆した「赤ひげ診療譚(しんりょうたん)」には、45歳になる松平壱岐守が出てくる。「壱岐守は絵で見た海象(せいうち)のように肥満し、座っているのも苦しそうであった。腹部は信じがたいほど巨大で、身動きするたびにゆたゆたと波を打ち、顎の肉は三重にくびれて、頸は見えず、じかに胸へ垂れ下がっていた」。黒澤明監督は顔が大きく頸の見えないお腹の大きな役者を使って、病的肥満を見事に表現している。

 「100日間この通りに差し上げてください」と、三船敏郎演じる赤ひげ先生は壱岐守の前で、栄養指導箋を筆で巻紙に書く。

 「鶏肉卵は厳禁です。魚介と塩梅もこの指定を越えてはなりません。飯はこのまえにも固く申した筈だが、精(しら)げた米はお命を縮めるばかりですから、麦七に米三の割をきっと守ってください」と赤ひげ先生は続ける。鶏肉卵や魚介は適量を食べればよいのだが、まさに現代の栄養指導士の姿に似ている。

 「お上のお体は厚味の御膳を多食なさるため、内臓全体に脂が溜まって衰弱し、吸収と排泄の調和がまったく失われているのです」赤ひげ先生は内臓脂肪型肥満を、既に江戸時代から知っていたのかもしれない。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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