人工多能性幹細胞と糖尿病・メタボリックシンドローム
2008年5月23日、日本糖尿病学会特別講演3の京都大学iPS細胞研究センター山中伸弥センター長による「iPS細胞の展望と課題」を聴いた。
iPS(induced pluripotent stem:人工多能性幹)細胞は万能細胞で、すべての細胞に分化できる多能性を維持したまま、無限に増殖できる。しかもヒトES(胚性幹)細胞のような倫理的問題も起こらない。
講演会場は午後2時から、東京国際フォーラムで最も大きい5000人収容されるホールAで行われた。今の日本で最も勢いのある研究者のパワーをもらおうと、講演40分前から2列目中央33番に座って待った。定刻には超満員となり、入り口にも人があふれていた。
山中教授は1987年神戸大学を卒業され、国立大阪病院の整形外科で研修をされている。「普通15分でできるというアテローマの手術が2時間かかり、臨床家をあきらめて基礎医学に移った」などエピソードを話された。そのまま整形外科医の道を歩まれていたら・・・ちょっとしたことで、その人の人生も、日本の医療の進歩も変わってくる。
iPS細胞を臨床応用し、膵島を増殖して移植できれば、インスリン分泌能が低下した糖尿病患者さんの夢の治療になるだろう。また糖尿病患者さんのiPS細胞を使えば、糖尿病の病態・成因の解明ができるかもしれない。
山中教授は「私のこれまでの講演の中で、一番大きな会場です」と言われた。私が発言した最も大きな会場もこのホールAで、2年前の日本糖尿病学会「メタボリックシンドローム」シンポジウムだった。5000人の前で発言するには覚悟がいる。
その時のシンポジウムの結論が「メタボリックシンドロームは存在しない。」「メタボリックシンドロームは病人を増加させるだけだ」などになりはしないかと気になり、会場右前方のマイクの横の席に陣取った。
私は「メタボリックシンドロームは過栄養と運動不足による内臓脂肪蓄積により合併症を来したもので、食事と運動の生活習慣を変えることで防ぐことができるシンドロームだ」
「メタボリックシンドロームは単に腹囲だけで決めるものではなく、糖代謝異常・脂質異常症・高血圧のうち2つ以上が加わって、初めてメタボリックシンドロームになる。病気を増やすわけではない」とフロアから発言した。
山中教授らによって日本で樹立されたiPS細胞が、糖尿病・メタボリックシンドロームに臨床応用されることを期待する。