鰻と力士とメタボリックシンドローム
2009年3月8日晴天、
途中、西名阪自動車道の香芝サービスエリアで「ひつまぶし」を食べた。ひつまぶしは鰻の蒲焼きを細かく刻み、おひつに入れたご飯に乗せて出される。そのまま食べる、ネギや山椒の薬味をかけて食べる、お茶漬けにして食べるの3つの異なる食べ方をする。
鰻でお腹が一杯になると、北徹日本動脈硬化学会理事長を想い出す。名古屋で学会があったとき、名古屋一の老舗で北先生と一緒に「ひつまぶし」を食べたことがある。
北理事長は恰幅(かっぷく)のいい豪快な先生で、1985年ゴールドスタインとブラウンのノーベル賞受賞に貢献されている。米国テキサス大学の研究室に、動脈硬化のモデル動物であるWHHLラビットとスタチンを日本から持って行かれ、LDLレセプター遺伝子解析をされた。
力士の健診のため京都大学の北徹先生、慶応大学の中谷矩章先生と浅草ビューホテルで待ち合わせ、タクシーで東駒形にある相撲部屋に行った。磨き上げた板の間の、分厚い座布団の上に座り、稽古を見学した。
中谷先生が問診と打聴診を、私が身体計測を、北先生が採血を受け持った。私は力士の上腕囲、前腕囲、胸囲、腹囲、臀囲、大腿囲、下腿囲と皮下脂肪厚を測定した。親方に「テイラーさんみたい」と言われた。
他の力士を測定していると、北先生の声と親方の声が聞こえてきた。振り返ると北先生と身長192cm胸囲152cmの親方が、威風堂々と向かい合っておられる。親方の左右両腕の肘静脈の所に、酒精綿が紙テープで止められている。両者の目から火花が飛んでいるように感じ、私は一瞬固唾(かたず)を飲んだ。
無事、採血がおわり、上の階の和室で和やかに食事をした。おかみさんは聡明な方で、ヘルシーちゃんこがでるのを期待したが、ウナギの下にウナギがある二段重ねの鰻重が出てきた。量が多い。お腹が一杯になったが残すと失礼になると思い、必死で全部食べた。
終わりだと思ったら、チャンコ鍋が出てきた。二段重ねの鰻重は前菜だったのだ。椀に1杯だけ食べたが、無理をして食べたので味は覚えていない。
北先生苦心の採血の結果は、15名力士のコレステロール値が160mg/dlと一般の人より低かった。中性脂肪も105mg/dl、空腹時血糖も95mg/dlと肥満者に比べ低かった。大阪場所で腹部CTスキャンを施行し、力士は内臓脂肪が少ないことがわかった。
過去の人、現在の人、これから出会う未来の人、人との出会いは私にとって財産だ。