パンデミックとWHO肥満症ガイドライン
2009年4月28日、WHO(世界保健機関)はメキシコや米国を中心とした感染が広がった新型インフルエンザ(豚インフルエンザA/H1N1)に対し、警戒レベルをパンデミックが目前にせまっている"フェーズ5"とすることを宣言した。
5月9日、日本でも新型インフルエンザが確認された。WHO関係者がテレビに出て何度も話をしている。どんな人がWHOの基準を決めているのだろうか。1997年にWHOから出された肥満症ガイドラインは、12名の委員で作成されている。欧州6人(英国2人、オランダ2人、スウェーデン1人、ロシア1人)、米国5人、豪州1人となっている。
WHO委員の内、4人を日本で案内したことがある。スウェーデンの故ビヨーントルプ教授は欧州一の肥満学者で、ニューヨークで国際肥満学会賞受賞講演を聞いた時は、雲の上の存在だと思っていた。日本肥満学会の特別講演の前、夫妻で大阪に来られた。旅館に宿泊され、畳の部屋で会席料理を食べた。近鉄電車で三重県鳥羽・志摩観光も一緒にした。
米国のブレイ教授は北米一の肥満学者で、南カリフォルニア(USC)大学留学中、教授のもとで2年間肥満研究をした。オランダのセイデル教授は、大阪で開催された脂肪分布異常の国際シンポジウムに来られ、法善寺横丁の水掛不動など案内した。オーストラリアのジメット教授とは、神戸市三宮にあるカラオケスナックへ行った。
WHO肥満症ガイドラインの原本は分厚い本で、日本に4冊しか配布されない貴重なものだった。その内1冊を今も大切に持っている。各国の肥満基準は、このガイドラインをもとに作成されている。日本でも、このガイドラインを参考に12人の委員(関東6人、中部2人、関西2人、九州2人)で肥満症ガイドライン2000を作成した。
WHOガイドラインはBMIが30以上を肥満とし、腹囲基準は男性102cm、女性88cmとなっており、そのまま日本人に適応できなかった。WHOの委員は全員欧米人で、アジア、アフリカ、中南米の人は入っていない。
引用された文献640の内、日本人の論文は3つだけで、いずれもブレイ門下生が共同執筆者となっている。日本人の臨床研究は、独創的で秀でた研究でも、一流雑誌に採用されにくい。基礎研究と異なり、臨床研究は人種差もあり評価されにくいようだ。
WHOのガイドラインは世界の専門家の人が作っていて信頼性は高いが、必ずしも各国の実情と合わず絶対的なものではない。経済水準・医療水準は、国によって異なる。インフルエンザも肥満症と同じく、WHOのガイドラインをそのまま当てはめても、うまくいかない。その国の衛生状態、医療レベルに合わせたものをアレンジする必要があるだろう。