睡眠障害と善玉タンパク質・アディポネクチン
2010年5月12日の朝刊に「睡眠障害がメタボを悪化」の見出しで記事が載った。
大阪大学肥満研究グループにより、睡眠障害が善玉タンパク質"アディポネクチン"と関連していることが明らかになった。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者では起床時のアディポネクチン量が低下しており、夜間の無呼吸を改善するCPAP(持続要圧呼吸療法)を行うとアディポネクチンの低下は起こらなかったという。
SAS患者では睡眠中の無呼吸により体内の酸素が不足し、脂肪細胞の機能が低下してアディポネクチンの分泌が減少すると推測される。アディポネクチンは大阪大学第2内科で発見された脂肪組織から分泌される物質で、炎症や動脈硬化、糖尿病を防ぐ働きがある。SASではアディポネクチンが低下することにより、メタボリックシンドロームになりやすくなると考えられる。
2008年2月、オーストラリアのシドニーで、国際糖尿病連合(IDF)の主催による「睡眠障害と生活習慣病に関する国際会議」が開催され、日本からは、松澤佑次大阪大学第2内科名誉教授が出席された。この会議をもとにIDFは"睡眠呼吸障害は肥満などが原因の2型糖尿病や高血圧、心臓病のリスクを高める"という内容の論文を発表している。
ロイターによる世界研究機関ランキング(1999~2009年)の肥満研究分野で、大阪大学の論文の引用回数は、1論文当たり平均63.76回で世界一となった。大阪大学の論文で最も多く引用されたのは、アディポネクチンに関する論文で、その他、メタボ診断基準に関する論文などがある。
2009年12月、ウェスティンホテル大阪での忘年会で、国の"事業仕分け"が話題になった。「世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?」と問われて、スパコン予算が縮減された。このことに対し、財務省OBは「せっかくいい質問をしてもらったのだから、一番でなくてはならない理由を説明し、事業をアピールするチャンスだったのに」と言われていた。
1978年から1991年まで大阪大学第2内科教授だった垂井清一郎先生は、学会予行の時、常に「その研究はノイエスか?(その研究は世界で初めてなされたものか?)」と問われ、世界一にこだわっておられた。2番煎じの研究をよしとされず、荒削りでも斬新な研究を評価されていた。
日本の肥満研究が世界の注目を集めている。世界一になるためには、最初から長期的展望にたって、オリジナリティのあることを根気強く地道につづけなければならない。大きな建造物も、強固な土台があってこそ成り立つ。