誕生日祝いと肥満・糖尿病

2010年6月 6日

    201061日、61歳の誕生日を迎えた。メタボリック教室を始めて、まる4年になる。

娘がバースデイケーキと6の字と1の字の形をした蝋燭を買って来てくれた。ケーキの上にのせる蝋燭の数も2本ですむようになった。娘は生まれて一度も我が家を離れて住んだことはなく、私にとって、生きるエネルギーの源(みなもと)だった。もうすぐ娘が東京へ嫁ぐので、親子4人水入らずで祝う誕生日は、これで最後になる。

61の文字の蝋燭に炎が灯り「ハッピーバースデー・トゥーユー、・・ハッピーバースデー・ディアお父さん、・・」と妻と子供たちが歌って祝ってくれた。

 

529日、日本糖尿病学会のディベート「IGTに対する薬物介入の是非」では、介入薬物としてメトホルミンとベイスンが取り上げられた。

ベイスンは開発名がAO128Anti Obesity128)と呼ばれ、抗肥満薬として開発された私にとって娘のような薬である。二糖類分解阻害剤で糖の吸収を抑えて減量が期待され、動物実験から健康成人への投与、肥満患者さんへの投与まで、大阪大学第2内科で行われた。

研究室の14人がボランティアとなって、ベイスン2mg0.2mg10錠分)を昼食前に服用すると、食後30分の血糖値上昇は25%に、インスリン値上昇は40%に抑えられたが、その日の午後はお腹が鳴りつづけ、放屁しつづけた。糖尿病を伴なった肥満患者さんに投与すると、高血糖が改善した。1986年、日本肥満学会とイスラエルでの国際肥満学会で、これらの結果を発表した。

糖尿病にも効果があることがわかり、ベイスンは抗肥満薬から抗糖尿病薬になった。結婚に例えると、ベイスンは肥満家で育てられ糖尿病家に嫁いで行ったようなものだ。

 

IGT75gブドウ糖負荷試験で140mg/dl以上をいう。2007年の厚生労働省調査では糖尿病は890万人、糖尿病を否定できない人(IGTを多く含むと考えられる)は1320万人となっている。

IGTに対しては糖尿病発症予防のため、食事・運動療法より薬物療法を選択した方が良いという意見があった。「それを保険診療でやるんですか?」と座長の伊藤千賀子先生は強い口調で言われた。ベイスンは年間5万円かかる。5万円×1000万人として、年間5000億円になる。

親元を離れると、独り歩きをすることがある。ベイスン育ての親の一人として、ベイスンが広く使われるようになったのは嬉しいが、IGTに使うのがはたして適切なのか。どんな薬にも副作用はある。IGTでは食事療法・運動療法をまず先に行うのが基本だ。

IGTに対する薬物介入に、糖尿病専門家で満員となった会場の選択は、ディベート前は賛成64%、反対36%だったが、ディベート後は賛成51%、反対49%となった。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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