奈良万葉びとの恋心とメタボリックシンドローム
2010年10月17日、奈良市春日野町にある奈良県新公会堂レセプションホールで奈良大学文学部の上野誠教授による「万葉びとの感覚」の講演会があった。
午前8時10分、伊丹の自宅を出発、阪神高速、第二阪奈道を通って、奈良に行った。街中、至る所に「平城遷都1300年記念」の表示がある。9時25分、新公会堂の駐車場は満車で、一番近い春日大社の駐車場に車を止めた。時間が少しあるので、世界遺産「春日大社」に行った。木で囲まれ深い緑のいい匂いがする。
二の鳥居の前には鹿が6匹おり、欧米の団体客30人が英語でガイドを受けていた。ゆるやかな勾配の砂利道の両側には、苔むした石灯籠が何重にもある。冷たい空気を胸いっぱいに吸い、石段を昇ると、朱色の春日大社本殿があった。
10時30分から、上野誠教授の講演があった。上野先生はユニークでソフトな語り口で知られ、NHKの番組にもたくさん出演されている。
最近、世界遺産「薬師寺」の山田法胤(ほういん)管長と会って話をした時、山田管長は「近頃、地球にやさしくという言葉がよく出てくるが、50年前までは、人間に対して自然にやさしくして下さいといっていた。自然に対する畏怖、憧れ、楽しむということが少なくなった」と言われたという。
西洋では2000年以上前から、自然を征服して文明を築いている。日本では自然の石や木を神として崇めてきた。西洋人もようやく気付き、自然や環境を守ろうという発想になっているのかもしれないと思った。
上野教授は万葉集の"待つ女の文学"として、額田王の「君待つと 我(あ)が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾(すだれ)動かし 秋の風吹く」と、鏡王女の「風をだに 恋ふるはともし 風をだに 来むとし待たば 何か嘆かむ」の二つをあげて、解説された。日本の文学は、四季のうつろいの風土の中で生まれ、環境が文化に影響する。
「天智天皇がなかなか会いに来てくれないことを、額田王は秋の風を感じることによって表現している。"恋する人を待つだけでも羨ましい、私は待つ人もいない"と、天智天皇に寵愛される額田王を妬む元彼女の鏡王女。恋心は神代の時代から変わらない」と話された。
恋人がいても、なかなか会ってもらえなくて嘆く人。恋人さえいないで、恋人がいる人を妬む人。万葉集の世界は、1300年の時を経た現代にも、そのまま通じる。
若い女性肥満患者さんの中には、恋がかなわなかったストレスを解消するために、過食になり太った人も多い。万葉の時代にも、現代社会のように食料が豊富にあったら、恋のストレスで肥満になった女性も多かったのだろう。