環太平洋経済連携協定と医師不足
2010年11月13日、大阪国際会議場で開催された第47回日本糖尿病学会近畿地方会で、TPP(環太平洋経済戦略的連携協定)が話題になった。
TPP(トランス・パシフィック・パートナーシップ)は、加盟国間のサービス、人の認証、貿易などの面で整合をはかり、関税などの障壁を撤廃しようとするものだ。例外や聖域を設けず、フェアに国と国との交流を図ろうとしている。
病院長が「農業だけでなく、看護師さんをTPPに入れることも検討されている。医師にTPPが完全導入されると、その国で医師免許を取得した人が日本で医療を行えるようになる。海外には技術レベルの高い医師がたくさんおり、TPPを導入すると日本の医師不足は一気に解消される」と言われた。
TPPは農業だけの遠い問題だと思っていたが、急に身近な問題になった。病院勤務医は「医師の自由化で海外から医師が来ても、日本語が話せないと、患者さんとコミュニケーションが取りにくいのではないか」「優秀な日本の医者は、高給で先端医療のできる海外の病院に行き、日本の一般病院が手薄になるのではないか」と言う。
11月15日、銀行OBとTPPと医師の自由化について話をした。銀行OBは「数年前までは公認会計士に仕事がたくさんあったが、今は2000人の新しい公認会計士のうち、700人しか就職口がない」と言われた。公認会計士も弁護士同様、人数が増えすぎて大変なようだ。
11月17日、公認会計士の友人にメールすると「弁護士も会計士も、制度を作る側は数を増やしても質に変化は生じないと考えた。しかし、数が増え、昔のようなステータスを保てなくなってきている。これは実は全ての資格を持つ職業にあてはまる現実だ」と返事がきた。
11月20日、江坂からの仕事帰り、尼崎市にある近松公園に行った。ノムラモミジは紅くなく、まだ緑色だった。高齢男性達が日だまりの中、いつものように池の前で将棋や囲碁をやっている。木陰に入るとひんやりとして、チュンチュン、カーカーと鳥の声が聞こえてくる。
公園の木のベンチに座って、医師不足について考えた。大学新卒でも就職口がない時代になっている。医師の国際間の移動もボーダレスになると、公認会計士や弁護士のように過剰になるかもしれない。質を下げないで過不足なく医師を増やし、しかも偏在がないようにしなくてはならない。
これから医師をどういう方法で、どれだけ増やすのか。医師不足の解決方法を見出すには、世界の経済・政治情勢なども考慮し、医師の自由化についても十分議論をする必要があると思った。