市場原理主義の導入とメタボリックシンドロームの概念
2011年3月3日、兵庫県西宮市にあるノボテル甲子園で「第12回阪神生活習慣病研究会が開催された。
阪神生活習慣病研究会は阪神地区(尼崎、西宮、伊丹、宝塚、川西、芦屋)の病院と診療所の医師が年1回集まり、新しい医学的知識を得、医療に関する情報交換をする場だ。
特別講演は吉田雅幸東京医科歯科大学教授による「直接的レニン阻害剤の画期的抗動脈硬化作用」で、最新の高血圧治療の話をされた。
懇親会では医療への市場原理主義導入が話題となった。市場原理主義とは低福祉低負担自己責任を基本とした小さな政府を推進し、政府が市場に干渉せず放任することが国民にとって最大の公平と繁栄をもたらすとする思想である。行政刷新会議では「医療法人の再生支援・合併における諸規制の見直し」が検討されている。
診療所医師は「警備保障会社、レンタル会社、・・、外国資本が経営する病院・診療所が増えると、地域に密着した小さな開業医は経営が苦しくなるのではないか。質の悪いへんな組織が病院や診療所に参入する可能性もある」と心配する。
病院医師は「病院が株式会社になると利益を追求することになり、利益の多い分野には参入するが、採算の合わない地方やリスクのある産科などには参入しないのではないか」、「市場原理主義の導入を支持している新聞社は、電子化で5兆円削減できるなど間違ったことを書いている」と憤る。
日本医師会などで構成する国民医療推進協議会は2月16日、「医療への市場原理導入を阻止し、国民皆保険制度を守り続ける」とする決議を採択し、政党と国民に働きかけるとしている。友人は「市場原理主義を導入するかどうかのキーパーソンは、経団連(日本経済団体連合会)、経済同友会と連合(日本労働組合総連合会)だ」と言う。
メタボリックシンドロームの概念(内臓脂肪の蓄積が基盤となって、糖尿病・脂質異常症・高血圧を来し、動脈硬化症を発症する)に当てはめると、経団連・経済同友会・連合は内臓脂肪蓄積に、政党・行政は糖尿病・脂質異常症・高血圧にあたる。
メタボ対策では個々の疾病より、過食・運動不足対策によって内臓脂肪蓄積を来さないことが基本となる。医療への市場原理主義導入に対し、財界や新聞社は医療の効率がよくなると賛成しているが、医師の多くは反対している。
「日本医師会が戦国武将なら、デメリットの方が大きいという説得力のある資料を持って、経団連、経済同友会、連合に行きプレゼンするのも一つの戦略だ」と私はアドバイスする。