映画・阪急電車とメタボリック教室
映画は阪急今津線を舞台にし、あずき色の車体の阪急電車が懐かしい風景の中を走っていく。同級生や後輩が結婚式を挙げた宝塚ホテルなど思い出の場所もたくさん出てくる。沿線に関西学院の他、神戸女学院、小林聖心など私立名門校があり、西宮北口に住んでいた私は1968年から2年間、今津線で阪大教養部のある石橋に通学していた。
萩原時江役の宮本信子の好演が光った。時江おばあちゃんは高瀬翔子(中谷美紀)を機微に富んだセリフで立ち直らせる。電車の中で乗り合わせた偶然の出会いが、名前も知らない人の人生に影響する。
時江の言葉が、強い者に逆らえない森岡ミサ(戸田恵梨香)を目覚めさせ、ミサの言葉が嫌だと言えない性格の伊藤康江(南果歩)に断る勇気を与える。阪急電車の中をわがもの顔で騒ぐおばちゃんたちを、時江は啖呵を切って打ち負かす。勧善懲悪の要素もあり、見おわったあと爽やかな気分になった。
主演の一人関学生の小坂圭一は広島弁で話し、その恋人の権田原美帆も田舎出身の関学生だったので、原作者は地方の出身だと推察したが、原作者の有川浩(ひろ)は関学出身の女流作家で高知県出身と、私の勘は当たっていた。
私の出会った関学生は、有川浩のような文学好きな女性が多かった。1971年1月5日広島県庄原市から帰阪時、岡山までの汽車の中で、隣の席になった上ヶ原に住むという関学文学部生から、神谷美恵子の「生きがいについて」と芹沢光治良の大河小説「人間の運命(全7巻)」を推薦された。1989年2月20日から中国の北京・西安・桂林・上海に旅行した時に出会った関学出身の女性からは、鄭念の「上海の長い夜(上・下)」を推薦された。2人とも一度きりの出会いだが、本の内容は記憶に残った。
メタボリック教室も関学出身者との縁がなければ、3年前に終わりになっていたかもしれない。第69段「異邦人とメタボリック」の最後4行など、所どころ気にいってもらい「止めるのはもったいない」と言われ、新しいメタボリック教室のレイアウト(緑に青い空)から129段までの文章の打ち込みまでしてもらった。
阪急電車に偶然乗り合わせたたった一度の出会いが、他の人の人生に影響を与えていく。いろいろな人との出会いがメタボリック教室をつづけさせている。一期一会、二度と巡って来ないかもしれない人との出会いを大切にしたい。