肥満関連腎臓病と淡路宣言2011
2011年10月4日、全国紙朝刊に「肥満症診断基準に肥満関連腎臓病を追加」「糖尿病の兆候なくとも発症」の見出しで記事が載った。
「肥満者の慢性腎臓病(CKD)は、高血糖や高血圧によって腎臓の血管障害を起こすのが主な原因だ。ところが、そのような危険因子の影響がなくても腎臓病が増えてきたことから、日本肥満学会は肥満関連腎臓病を新たに追加した。メタボを含め、肥満による血行の異常や内臓脂肪が分泌する悪玉物質が関係しているとみられる」と書いてある。
9月23日正午から、兵庫県淡路市淡路夢舞台で、中尾一和日本肥満学会理事長、森昌朋副理事長、宮崎滋副理事長、松澤佑次前理事長、齋藤康診断基準委員長による記者会見が行われ、肥満症新診断基準と「淡路宣言2011」が発表された。
2000年以来、11年ぶりに改定される肥満症診断基準2011では、BMI25以上、腹囲男性85cm、女性90cmに変更はないが、「肥満に起因または関連する健康障害」に「肥満関連腎臓病」が追加された。
腎不全による人工透析導入患者は慢性糸球体腎炎によるものが多かったが、1998年以降、糖尿病性腎症が最も多くなっている。最近では腎硬化症によるものが年々増えており、慢性糸球体腎炎を抜いて2位になるのではないかと言われている。腎硬化症は肥満・メタボリックシンドローム・高血圧・高尿酸血症などによって起こると考えられている。
私は初診時に、BMI30以上で尿蛋白陽性かつクレアチニン2.0mg/dl以上の肥満者を8例経験したが、いずれも糖尿病はなかった。高度肥満の腎障害は、糖尿病を介さない何らかの期序で、腎障害を起こしているのだろう。
「日本肥満学会・淡路宣言2011」は、①日本肥満学会は世界的な肥満の増加に対し、アジアの肥満研究の成果を基盤とし、肥満症を代表とする生活習慣病の研究と対策に、指導的役割を果たすことを使命とする。②基礎研究・臨床研究に加え、コホート研究も充実させる。③小児の肥満が増加しており、長期にわたる小児肥満症研究を展開する。④新たに肥満症専門医・生活習慣病指導士の制度を制定し、肥満症診療の更なる充実を図る。の4項目からなっている。
日本の肥満研究は世界の最先端を進んでいる。ロイター通信によると松澤佑次前理事長は、この10年間で58論文が1万8000回引用され、「肥満研究部門」で世界一となられている。
日本における透析患者数は30万人と増加している。国庫負担は年間1人当たり500万円に上り、総額1兆5000億円となって財政を圧迫している。透析は受ける人の肉体的・精神的苦痛も大きい。日本の最先端の肥満研究の成果を生かし、動脈硬化症・糖尿病とともに肥満関連腎臓病も防ぐことが期待される。