映画「わが母の記」と認知症
2012年5月4日、映画「わが母の記」を観に行った。
原作は井上靖の自伝的小説で、老いた母の80歳から89歳までが描かれている。井上靖は敦煌、風林火山など歴史小説で知られているが、学生時代に教科書で習った「あすなろ物語」が思い浮かんだ。
作家の伊上洪作(役所広司)の母八重(樹木希林)は、次第に記憶が失われ認知症になり、徘徊するなど周囲を困らせる。主人公は、幼い頃母に捨てられたと思っていた。母は息子の書いた手紙を大切に保管しており、息子がそれを知り涙ぐむ場面では、館内いたる所からすすり泣く声が聞こえ、中には大声で泣いている人もいた。
映画は封切られた時が旬で、多くの観客と感動を共有できる。最近7年間で150回近く映画館に行ったが、この数年、DVDを借りて観た映画はスピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」だけだ。映画は映画館で見る方が楽しい。
認知症はもの忘れなどに加え、妄想・徘徊・意欲低下などが起こる。薬物による完治が望めない現在、家族による介護が必要となるので大変だ。
私の知人は「子供や孫と一緒に住むのは面倒だ。一人で、のんびり暮したい」と、床暖房付きの高級マンションに住み、羨ましく思っていたが、数年後、認知症になった。老後は、何の苦労もない生活より、適度なストレスがあった方がよいのかもしれない。
認知症患者が増えている。その主な原因は高齢化だ。2012年4月、WHO(世界保健機関)は、世界の認知症患者は3560万人で、2030年には2倍、2050年には1億人を超えると発表した。厚労省は日本の介護が必要な認知症患者は、2030年に250万人になると推測している。
認知症は画像診断の急速な発展で、発症直前の早期の段階でわかるようになってきた。アルツハイマー型が半数以上を占め、次いで"レビー小体型"が多く、脳梗塞など脳血管性認知症は3番目になっている。
アルツハイマー病はアミロイド沈着したからといって、すぐに発症するわけではない。発症する数10年前から、アミロイド沈着をしている。アルツハイマー病変があるのに発症していない人は、言語能力など認知能力に優れているという報告がある。
老後も働いたり、自治会活動・ボランティア活動をしている人と、家にじっとしている人とでは、明らかに違っている。
言葉を発することは、運動野・記憶野・聴覚野など脳のいたるところを活性化させる。認知症になるのを遅らせるためには、老後も積極的に社会と関わりを持ち、意識して外出することを奨める。