セロトニンと新しい肥満症治療薬
2012年6月29~30日、東京・千代田区にある学術総合センターで、「第30回日本肥満症治療学会(川上正舒会長)」が開催された。
6月29日午前9時40分から、高度肥満のセッションがあった。いっしょに座長をした佐賀医大健康管理センター佐藤武所長(精神科教授)は「過食・拒食などの摂食障害やうつ病には、脳内セロトニンが関係している」と言われる。
新しい肥満症治療薬「ロルカセリン」が6月27日、FDA(米食品医薬品局)で承認された。FDAが肥満症治療薬を承認するのは、13年ぶりになる。日本での肥満症治療薬は、1982年に厚労省がマジンドール(サノレックス)を承認した以降、30年間ない。
ロルカセリンは選択的セロトニン2C受容体アゴニストで、脳内視床下部に作用し、食欲を抑え体重を減少させる。セロトニン2C受容体作動薬には、以前米国で発売されていたフェンフルラミンがある。
米国USC時代、フランス人のルピアンとフェンフルラミンの作用機序について研究していた。ラットにフェンフルラミンを注射すると、LH(視床下部外側野)のセロトニン経路を電気破壊した時と同様に摂食量が減り、体重が減少した(図)。
どちらのラットも、褐色脂肪の熱産生が増加しており、体重減少には食欲抑制作用に加え、消費エネルギーの増加も関与していることが明らかになった(J.R.Lupien, K.Tokunaga , et al: Physiol Behav 38:15,1986)。
フェンフルラミンは心臓弁膜症の副作用があり、1997年発売禁止になった。フェンフルラミンによる心臓弁膜症は、心臓弁に豊富に存在するセロトニン2B受容体の刺激によるものとされている。ロルカセリンは、セロトニン2C受容体への選択性をより強くしたもので、現在のところ、弁膜症の発症は認められていない。
やせ薬として、2001~2002年に中国から入ってきたN‐ニトロソフェンフルラミンは、日本で数1000人に重篤な肝障害を引き起こしている(メタボ教室第16段「やせ薬と肥満」)。
ロルカセリンの3182人を対象とした治験では、52週で5.8kg(プラセボ2.2kg)体重が減少している(NEJM2010)。30年前、マジンドールの日本人115人を対象とした治験では、14週で4.6kgの体重減少があった。
今年5月の日本糖尿病学会では、厚労省から新しく認可されたインクレチン製剤だけで、400題以上の発表があった。副作用が少なく効果が大きい肥満症治療薬が開発され、認可されることを期待する。