「優しい医者・考える医者」と自己血糖測定部位
2012年12月15日、大阪市北区にあるブリーゼプラザで「第64回大阪大学内分泌代謝研究会」が開催された。
午後3時から一般演題があった。大阪大学内分泌代謝内科・木村武量らによる「急性膵炎様症状を認めず、膵石症と若年発症の膵内外分泌障害を伴った遺伝性膵炎の1例」では、「家族歴があり、これまで報告されたものとは異なる新しい遺伝子異常の可能性がある」と発表された。最近の症例報告は、遺伝子レベルまで検討したものが多くなっている。
タイトルに膵の字が4回使われている。膵は江戸時代に日本でできた国字(和字)で、中国伝統医学の五臓(心・肺・肝・脾・腎)六腑(胃・小腸・大腸・胆のう・膀胱・三焦)にはない。国字は1553字あり、よく使われる国字には膵・腺・働・峠・辻・萩・笹・枠・鰹・鰯・鱈などがある。
垂井清一郎阪大名誉教授 表示の著書「糖尿病物語(中山書店3200円)」には、「膵は1805年、蘭学者・宇田川玄真が創成した国字である。pancreas膵臓のpanは全て、creasは肉を意味し、月(肉つきへん)に集まりを意味する萃(スイ)を合わせて膵の字が作られた」と書かれている。確かに、膵臓は肉の集まりに見える。
一般演題の最後は、市立貝塚病院の野中共平久留米医大元教授による「SMBG穿刺にいまでも指先を使いますか?」だった。自身で食事前と食後10分ごとに2時間、指先・掌・前腕の血糖を測定され、3か所ともほぼ同じ値が出ていた。「指先は掌・前腕に比べ痛みを感じやすい。"優しい医者"は、患者の痛みを考えることも必要だ」と述べられた。
SMBG(血糖自己測定)は、指先を針で突いて測定するものと思っていた。初期のSMBG必要血液量は3~10μlと多く、毛細血管に富む指先が使われていたが、クーロメトリーによる測定が開発され、0.3μlと少なくなり、毛細血管が少ない掌や前腕でも可能になったという。掌・前腕では時間がかかり、テクニックが必要という点はあるが、調理師やパソコンを使う人にとっては朗報だ。
午後4時50分から、大阪医大第1内科・花房俊昭教授 表示による特別講演「優しい医者・考える医者をめざして」があった。花房教授は私と同じ1978年7月阪大2内入局の同期で、垂井内科の一期生になる。「垂井先生が医学生に座右の銘を書いてほしいと頼まれた時、頭の中にフーと思い浮かんで書かれた言葉が"優しい医者・考える医者"だった」と話された。
自己血糖測定は指先を使うのが一般的だが、痛みの少ない掌や前腕を使ってもいい。優しい医者のつもりだった私(メタボ教室第13段「糖尿病教育」)は、「優しい医者・考える医者の奥は深い」と改めて思った。