俳人・文士ゆかりの宿と奈良大乗院庭園
2013年1月、俳人・文士ゆかりの宿「奈良ホテル」に行った。
JR大和路線で奈良駅に行き、駅から4つ目のバス停「奈良ホテル前」で下車、舗装された坂道を歩いた。俳人・高浜虚子は新聞記者時代、砂利道だったこの坂道を、人力車に乗って一気に駆け登っている。
桃山御殿風檜造りのホテルが見えてきた。奈良ホテルは東京駅を手がけた辰野金吾により設計され、1909年"皇族・国賓を迎える関西の迎賓館"としてオープンしている。和洋折衷ホテルで、ホテルに宿泊した高浜虚子は、紐を引くと勢いよく水が出てくるトイレに驚いている。
床・階段には赤い絨毯が敷きつめられ、館内には横山大観・上村松園・河合玉堂らの絵画があり美術館のようだ。設備も最新のものがあり、奈良県で唯一のWi-Fi(ワイファイ)があるホテルとなっている。
部屋の天井は4~5mと高く、ゆったりとした時間を過ごすことができる。ローマ法王、ダライラマ14世、ニクソン、鄧小平、胡錦濤、ガンディー、ネール、ヘレン・ケラー、堀辰雄、チャールズ・チャップリン(新婚旅行)、オードリー・ヘップバーン、三船敏郎らが宿泊している。
山口誓子、森鴎外、谷崎潤一郎、志賀直哉、林芙美子、和辻哲郎、亀井勝一郎など俳人・文士も、このホテルに足跡を残している。
正午から、天皇陛下がお食事をされるという"菊の間"で宴(うたげ)があり、21人が出席した。菊の間の襖は金箔貼りで、平泉中尊寺金色堂に似ている。窓の外に、興福寺の五重塔と若草山が見える。
前菜は"鯛とノルウェーサーモンのサラダ仕立て柚子風味ソース"で、白ワインのフルーティーな香りがいい。奈良ホテルのソムリエは、奈良県で最初に資格を取得したベテランだ。メインの肉料理は"牛肉ステーキとフォアグラのロッシーニ風"で、料理にあった赤ワインが出された。
宴では、司馬遼太郎が話題になった。司馬遼太郎は、産経新聞文化部長時代から奈良ホテルを愛用している。司馬遼太郎の名前の由来は、あこがれていた司馬遷(メタボ教室第76段「ニート」)より名付けられたという。
午後2時45分、奈良ホテル敷地内にある「大乗院庭園」に行った。15世紀末、善阿弥が築造した池水回遊式庭園で、2010年から一般公開されている。春は桜、夏は百日紅、秋は紅葉、冬は雪景色が楽しめるという。あたたかい日差し中、大小の池で鴨が泳いでいた。皇室の方も散策される庭園で、茶室・和室もあり、園遊会もできそうだ。
俳人・文士にこよなく愛されてきた奈良ホテルは、何度来てもワクワクする。多くの歴史を刻み込んだ奈良ホテルは、今も新しいものも取り入れ、進化しつづけている。