映画「アルゴ」と孫子の兵法
2013年2月28日、ココエ尼崎へ第85回アカデミー賞受賞作品「アルゴ」を観に行った。
午後6時10分、館内は仕事帰りのサラリーマンが多い。アルゴは1979年のイランアメリカ大使館人質事件を題材とした実話で、ベン・アフレックが監督・主演をしている。アルゴの名は、ギリシャ神話の冒険者たちが乗った巨大な船に由来する。
イランのカナダ大使館に逃げ込んだ6人のアメリカ人を、CIAのトニー・メンデス(アフレック)が、アルゴという架空のSF映画のロケハンに仕立て救出する。敵を欺いて一人の死者も出さず脱出するというメンデスの戦略は、孫子の兵法(戦わずして勝つ、勝算無きは戦わず、戦いは騙しあい)の神髄といえる。
アラブ・アフリカ情勢に詳しい友人は「2年前のビンラディン殺害後、パキスタンとアメリカの仲が悪くなり、中国が入ってきた。アメリカは国防費17%削減で、アフガン・イラクを撤退するので、他の大国が入るかもしれない。アラブ・北アフリカにアメリカが介入しなくなると、旧宗主国や他の大国が入る可能性がある。
アフリカには中国人が90万人いる。日本はアフリカのバスに乗り遅れている。アルジェリア人質事件では日本人が狙われ、政府軍も日本人のいる車を攻撃した。被害がなかった東アジア諸国は、政府やゲリラとも通じていたからだ。日本は商社に頼り過ぎていた。アフリカに、日本の武官は2人しかいない」と言う。
孫子の兵法「用間篇(情報活動)」には、郷間(相手国の住民によって情報を得る)、内間(相手国の役人によって情報を得る)、反間(敵対する勢力を手なずけて情報を得る)がある。日本は郷間だけだったため多数の死者を出し、東アジア諸国は内間・反間も用いたため犠牲者が出なかったのかもしれない。
孫子の兵法を学んだ戦国武将に、"三本の矢"で知られる毛利元就(メタボ教室第287段「日本の農耕文化」)がいる。元就は孫子の兵法を熟知し、郷間・内間・反間の三本の矢をうまく使って戦いを進めている。
難民支援をしている友人は「日本には、国の援助を受けている世界各国の間者がいる。店内に客が少なく、明らかに経営が成り立っていないように見える民族料理店は、国から資金が出ていることがある。そこが情報交換の場となっている。道端でリングなど売り、どうやって生計を立てているのかわからない人の中にも、国から資金が出ている場合がある」と言う。
孫子曰く「彼を知り己を知れば、百戦して危うからず」。孫子の兵法は2500年後の今も、アラブ・アフリカ諸国で生きている。郷に入れば、郷に従え。郷間・内間・反間の三本の矢で彼(相手国)を知る必要がある。