日本人が肥満になると動脈硬化危険因子は何倍になるのか?
2014年12月17日、大阪府吹田市にある江坂東急インで「肥満の医療経済」についてメディアの取材を受けた。
「肥満の医療費はどれくらいかかるか?」と聞かれ、「平成22年度の日本の医療費は36.6兆円で、メタボリックシンドローム関連は5.6兆円(20.6%)となっている。内訳は、糖尿病1.2兆円( 4.5%)、高血圧性疾患1.9兆円(6.9%)、脳血管障害1.8兆円( 6.5%)、虚血性心疾患0.7兆円( 2.7%)だ。メタボ・肥満の医療費は、癌の医療費3.0兆円(11.1%)の2倍になっている」と答えた。
また、「日本肥満学会は、肥満と肥満症を明確に区別している
表示。肥満症を疾病としてとらえ、肥満(BMI25以上)の中で、①糖尿病など11の合併症を有する者、または、②腹部CTスキャンで内臓脂肪面積100平方以上の内臓脂肪型肥満、を肥満症としている
表示」と話した。
「肥満度分類の肥満1度(BMI25以上30未満)、2度(30以上35未満)、3度(35以上40未満)、4度(40以上)は、どのぐらいの比率になるのか?糖尿病や脂質異常、高血圧、高尿酸血症は、肥満になると何倍になるのか?」と聞かれ、日本肥満学会の肥満症診断基準2011
表示を見たが、肥満度分類別%や肥満に起因する疾病が何倍になるか載っていなかったので、調べてみることにした。
2013年4月から2014年3月までの健診受診者1万7632人(男性10713人、女性6919人)を対象に検討した。肥満1度は男性26.5%、女性11.4%、肥満2度は男性3.6%、女性2.3%、肥満3度は男性0.5%、女性0.5%、肥満4度は男性0.1%、女性0.1%だった。世界基準の肥満(BMI30以上)は少なく、日本人の肥満の大部分は過体重(BMI25以上30未満)にあたるものだった。
普通体重(BMI18.5以上25未満)と、肥満者(BMI25以上)の合併症を比べた。糖尿病とその予備群(空腹時血糖110mg/dl以上)の割合は普通16.8%に対し、肥満では29.7%で1.8倍になっていた。高中性脂肪血症(TG150mg/dl以上)も、普通25.9%に対し、肥満では47.3%で、1.8倍。高血圧(140/90mmHg以上)は、普通17.0%に対し、肥満では42.2%で、2.5倍。高尿酸血症(尿酸値7.0mg/dl以上)は、普通22.0%に対し、肥満では39.1%で1.8倍になっていた。
女性も同様に検討したが、糖尿病とその予備群の割合は肥満で3.1倍、高中性脂肪血症は2.4倍、高血圧は2.6倍、高尿酸血症は1.5倍になっていた。日本人は、肥満の程度は低くても、内臓脂肪が蓄積すると合併症を引き起こすのだろう。
日本の薬剤費は、この10年で7兆円から10兆円になっている。高血圧治療薬は1兆円で、新薬のARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)が60%を占める。糖尿病治療薬は5000億円で、新薬のDDP-4阻害薬が50%を超えている。肥満症治療薬は20億円以下で、新薬の開発が期待されるが、肥満症にならないよう生活習慣を改善することが基本だ。
日本人が肥満になると、動脈硬化危険因子は約2倍になっていた。日本の医療費は伸びつづけ、平成25年度は39.3兆円となっている。肥満症対策は、健康寿命を延ばすとともに、医療費抑制になる。