動脈硬化動物モデル:GK-VMHラット
2015年1月10日、大阪市北区にあるリーガロイヤルホテル大阪・光琳の間で、「第63回大阪大学第二内科同窓会」があり、200名が出席した。
午後4時、大阪大学医学部保健センターの西田誠准教授(写真上左端
表示)による総会講演「動脈硬化:動物モデルと臨床」があった。西田准教授は、阪大2内肥満研究グループの13年後輩になる。
「マウス・ラットは動脈硬化を起こさないとされていたが、GKラットのVMH(視床下部腹内側核)を破壊すると、過食となり血糖が上昇し、動脈硬化を起こした。内皮細胞にリンパ球やマクロファージが浸潤し、内膜が肥厚していた。動脈硬化モデルとして、現在はアポE-KOマウス(アポ蛋白E欠損マウス)が使用されている。ヒトとマウスでは心拍数・HDLコレステロール・LDLコレステロール・CETPなどに違いはあるが、動脈硬化発症機序の解明、薬の効果をみるのに動脈硬化モデル動物は有用だ」と話された。
講演では、J Lab Clin Med 1997
表示に載ったGK‐VMHラットの動脈硬化のスライドが何枚か使われていた。
GK(後藤‐柿崎)ラットは、遺伝的に膵β細胞のインスリン予備能が低下したNIDDM(インスリン非依存型糖尿病)のモデル動物として知られている。1989年4月、GK雄ラットのVMH(満腹中枢)を破壊すると、過食となり体重増加がみられ、7週後には血糖が400mg/dl(GKラット200mg/dl)と著しく上昇し、尿糖が多く、インスリン値も高くなった
表示。
GK‐VMHラットの膵臓インスリン含量は、著しく低下しており、(Metabolism 1994
表示)、GK‐VMHラットでは、腸間膜脂肪(内臓脂肪)が蓄積し、糸球体基底膜の肥厚があり、尿中蛋白が増加していた(Int J Obes 1996
表示)。
GK-VMHラットに動脈硬化が起こることは、視床下部が正確に破壊されているかどうか、脳の組織標本を調べてもらった時、偶然見つかった。ラットやマウスには動脈硬化は起こらないとされていたので、阪大2内神経研究室の藤村晴俊先生から「脳の血管に動脈硬化が起こっていますよ」と聞いた時は、驚いた。
午後6時30分から懇親会があった。前会長の松澤佑次住友病院長は、「臨床で見つけたことを、基礎研究で解明し、臨床に戻すという第2内科の伝統を引き継いでほしい」と挨拶された。
西田誠准教授に「1990年頃の動脈硬化モデル動物は、WHHLウサギだけで、ラットやマウスの動脈硬化モデルはなかった。GK-VMHラットが使われなくなった理由は何故か?今は動脈硬化モデルとして主に何が使われているのか?」聞くと、「その後、アポE-KOマウスが開発され、動脈硬化動物モデルとして使われている。GK-VMHラットは作成が難しく、アポE-KOマウスの方が簡単にでき、アポE-KOマウスの方が動脈硬化の程度が強い。WHHLウサギは大きいので扱いにくい」とのことだった。
GKラット(糖尿病モデル動物)のVMH(満腹中枢)を破壊し、過食にすると血糖が著しく上昇し、動脈硬化を引き起こす。動脈硬化動物モデルによる基礎研究は、臨床研究ではできないことを解明するのに役立つ。