「二つの満腹中枢」と究極の肥満治療法
2015年2月12日、大阪市天王寺区上六にあるシェラトン都ホテル大阪で「動脈硬化予防・治療の検討会」があった。
午後7時45分から1時間、「肥満のサイエンスー肥満症の診断・治療から疫学まで」の特別講演をした。
私は「肥満は摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることによって起こる。摂食は、脳の視床下部にある食欲中枢によってコントロールされている。空腹を感じる空腹中枢(LH:外側野)を電気破壊すると、摂食量が減りやせる。満腹を感じる満腹中枢はVMH(腹内側核)とPVN(室旁核)の二つ
表示があり、どちらかの満腹中枢を電気破壊すると摂食量は増え太る」と話した。
会場から「私の友人は阪大の肥満外来に行き、入院して食事と運動で減量に成功したが、リバウンドした。リバウンドをしない治療法はあるのか」と厳しい質問があった。
私は「阪大に入院した人は全員減量に成功したが、10~20年後の追跡調査でリバウンドがなく減量しつづけたのは、3分の1しかなかった。高脂肪食や甘いものなど食べ物への依存は、コカインやニコチンへの依存と同じように強い。食欲を抑えて減量を維持することは難しい」と答えた。
午後9時10分から懇親会があった。大学時代からの親友の福並正剛君
表示が「大阪府立急性期・総合医療センターでは、パーキンソン病の治療として脳深部刺激療法をしている。視床下部の満腹中枢を刺激したら、食欲が抑えられ、やせるのではないか」と言う。
空腹中枢(LH)を破壊すると、体重が減少する(ルピアン
表示、徳永他:Physiol Behav 1986)。脳の電気破壊は不可逆性の変化で、ヒトでは人道的にできないと諦めていて、福並君の発想は考えたこともなかった。やはり、福並君は天才だった(メタボ教室第41段「創造力」)。
脳に二つの満腹中枢があることは、毎日新聞1988年8月18日の朝刊社会面
表示に大きく掲載された。PVNを破壊しても、VMHを破壊した時と同じように摂食量が増え、著しい肥満になる
表示。しかし、行動パターンは異なり、VMHラットでは日内リズムがなくなり1日中食べるのに対し、PVNラットでは普通のラットと同じように暗期に食べる
表示(徳永他:Am J Physiol 1986
表示)。
運動もVMHラットはものぐさでケージの端に1日中座り、あまり動かないのに対し、PVNラットは普通のラットと同じように動き回る
表示(徳永他:Brain Res Bull 1991
表示) 。VMHラットは凶暴だが、PVNラットは普通だ。
PVNにピンポイントで電極を入れ、朝昼夕必要十分量の食事をし、食べ終わると同時に皮下に埋めた電池から電気刺激を与えると、空腹感を感じなくなりやせる可能性がある。また、空腹感が強くなった時だけ、スイッチを入れて満腹中枢を刺激するようにしてもよい。
高度肥満者の減量・持続は難しい。脳の視床下部にある満腹中枢の一つPVN(室旁核)を刺激活性化することは、日内リズム・運動量・情緒に影響を与えることなく減量でき、究極の肥満治療法になるかもしれない。