高齢者糖尿病HbA1c目標値・下限値と認知症

2016年5月26日

   2016520日、京都国際会議場で第59回日本糖尿病学会が開催された。

午後2時、日本糖尿病学会/日本老年病医学会合同シンポジウム「高齢者の糖尿病をどうするか」があり、高齢者糖尿病の低血糖や認知症を防ぐため、血糖コントロール目標値(HbA1c)とHbA1cの下限値が示された。

糖尿病の3分の2を、65歳以上の高齢者が占める。高齢者糖尿病は、65歳未満の糖尿病に比べ、重篤な低血糖・認知症・ADL(日常生活動作)低下・サルコぺニア・転倒・骨折・フレイルを来たしやすい。

 

新しい高齢者糖尿病のHbA1c目標値は、1)認知症・ADLの有無で3つのカテゴリーに、2)重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤・SU薬・グリニド薬など)の使用の有無で2つに分け、年齢も加味して7つの分類になっている。

カテゴリー1は認知機能が正常でかつADLが自立している者、カテゴリー2は①軽度認知症または②手段的ADL(買い物・食事の準備・服薬管理・金銭管理など)が低下し、基本的ADL(着衣・移動・入浴・トイレの使用)が自立している者、カテゴリー3は①中等度以上の認知症または②基本的ADLが低下または③多くの併存疾患や機能障害のある者、としている。

インスリン・SU薬などを使っていない65歳以上の患者のHbA1c目標値は、カテゴリー12では7.0%未満、カテゴリー3では8.0%未満となっている。

インスリン・SU薬などを使っているカテゴリー1の者は、年齢で2つに分け、65歳以上75歳未満ではHbA1cの目標値を7.5%未満とし、下限値を6.5%としている。75歳以上では目標値を8.0%とし、下限値を7.0%としている。カテゴリー2の者のHbA1c目標値は8.0%未満(下限値7.0%)、カテゴリー3の者は8.5%未満(下限値7.5%)としている。

 

シンポジウムの中で、横手幸太郎千葉大学教授は、「糖尿病性腎症や網膜症など細血管障害は糖尿病になってから510年後、心筋梗塞や脳梗塞など大血管障害は糖尿病になってから20年後に起こる。平均余命の少ない糖尿病患者では、厳密な血糖コントロールのメリットは少ない。それより、低血糖による認知症・経済的負担など"負の側面"の方が大きいかもしれない」と話された。

高齢者糖尿病では、HbA1cと大血管障害・脳卒中・死亡とはJカーブになる。インスリンやSU薬で治療している高齢者糖尿病では、HbA1c7.0%未満で重症低血糖を起こしやすい。HbA1c8.0%台の方が7.0%未満よりも死亡やADL低下が少ない。そのため、低血糖リスクが大きい認知症やADL低下のある高齢者で、HbA1cの下限値は7.5%に設定された。

 

市民病院で当直をしていた頃、救急車で運ばれてくる糖尿病患者の9割は低血糖によるもので、高血糖は少なかった。後輩の糖尿病専門医は「患者さんの中には、HbA1cが低ければ低いほどいいと思っている人がいる。下限値ができて、治療がしやすくなる」と言う。

新しい高齢者糖尿病HbA1c目標値は、認知症・ADLや薬剤使用の有無で分けられた。インスリンやSU薬で治療をしている高齢者糖尿病に、HbA1cの下限値が設けられ、重症低血糖や認知症が減少することが期待される。

徳永勝人 医師
(とくなが かつと)
医学博士


1968年
広島県立庄原格致高校卒業
1974年
大阪大学医学部卒業

内臓脂肪型肥満、
標準体重=身長X身長X22
を提唱する肥満の
第一人者として活動中。

1983年-1985年
南カリファルニア大学
研究員
大阪大学第2内科講師
市立伊丹病院内科部長
大阪大学臨床助教授
兵庫医大実習教授
を経て
高槻社会保険健康管理センター
センター長として勤務

日本肥満学会肥満症診断
基準検討委員会委員
日本糖尿病学会評議員
日本動脈硬化学会評議員

NHK「きょうの健康」での
講師を務める。
著書に
  「肥満Q&A
  「食事で防ぐ肥満症」
 
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