肥満症治療薬・抗がん薬と生活習慣病指導管理料
2016年10月7~8日、東京有明で「第37回日本肥満学会(小川佳宏会長)」が開催された。
10月8日午前9時、第1会場でビジョナリー座談会「わが国の肥満症学の現状と将来展望」があった。今学会のテーマは"肥満症学ー基礎から臨床、そして社会へ"となっている。日本はアディポネィチン、グレリンの発見、内臓脂肪型肥満の提唱など、基礎と臨床面では世界の最先端を行っているが、社会へのアプローチが弱い。
フロアから私は「肥満症の治療は、食事療法と運動療法が基本となる。しかし、食事・運動が難しく、薬物療法が必要な症例もある。肥満症治療薬は、日本人での治験で、いいデータが出ても認可されない。オルリスタットは厚労省が承認せず、セチリスタットは中医協が保険適用しなかった。
高血圧、糖尿病、がんの薬は、簡単に厚労省で認可され、中医協で保険適用になっている。肥満学会として、厚労省や中医協に働きかけることはできないのか」と質問した。
座長の門脇孝東大病院長は「昨日、春日雅人先生の理事長提言でもあったように、CTスキャンによる内臓脂肪測定の保険適用、新薬の承認・保険適用など、厚労省や中医協に働きかけていく」と答えられた。
フロアから、下村伊一郎阪大教授は「日本では今、癌に対し注目が集まっている。肥満学会も、肥満は癌と関連することをアピールするとよい」とコメントされた。肥満症診療ガイドライン2016には、大腸がん・食道がん・子宮体がん・膵臓がん・腎臓がん・乳がん・肝臓がんの7つのがんが、肥満者で増加すると明記されている。
フロアから、松澤佑次住友病院長は「肥満の治療は、生活習慣の改善が最も重要だ。糖尿病、高血圧、脂質異常症には生活習慣病指導管理料があるが、肥満症にはない。肥満はこれら疾患の上流にあり、肥満症指導はより重要だともいえる。肥満症指導が保険適用になるだけでも、肥満に対する医療者の関心が一気に高まる。肥満学会は、生活習慣病指導管理料に肥満症が保険適用されるよう働きかけるとよい」とアドバイスされた。
リーマンショックの2008年、財務省OBの友人に「赤字国債が1000兆円あるが、日本は大丈夫か」聞いたことがある。財務省OBは「赤字国債は世界一多いが、日本人が買っているので全く心配ない。ただ、貿易黒字が赤字になり、国際収支の赤字が長期間つづくと、外国人が国債を買い、国債が暴落することもあり得る」と言っていた。
医療財源は限られている。年間3500億円かかるオプジーボが肺がんに保険適用され、他の多くのがんにも広がると、10兆円以上になるかもしれない。オプジーボは日本が開発した抗がん薬だが、抗がん薬の大部分は日本以外で開発されたものだ。医薬品の貿易赤字は2兆4584億円となっている。高額な抗がん薬の保険適用がこのままつづくと、貿易赤字が増え、日本は財政破たんする可能性がある。
肥満は多くの生活習慣病を引き起こし、癌も増加させることが明らかとなっている。生活習慣病指導管理料が肥満症にも保険適用されると、肥満に対する医療従事者の関心が高まり、生活習慣病治療に役立つ。