ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子」と肥満外科治療
2016年11月12日、大阪国際会議場で「第53回日本糖尿病学会近畿地方会」が開催され、2400名が参加した。
午前9時30分、大ホールで卯木智滋賀医大糖尿病内科講師による教育講演「肥満外科治療は、なぜ日本では普及しないのか?」があった。
卯木智講師は「肥満外科治療は内科治療に比べ、高度肥満を有する2型糖尿病を改善し、死亡率を下げる。費用対効果も優れており、2014年には世界で年間57万人が肥満外科手術を受けている。
一方、日本では2014年に腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険適応になり、施設数の増加が期待されたが、2015年の手術件数は258例にとどまっている。肥満外科治療が日本で普及しないのは、医療者の認知度が低いこと、手術できる施設が少ないこと、などが考えられる」と講演された。
私はフロアから「私は保険点数が90万円と少ないからではないか。肥満外科治療では、外科医・内科医・看護師・栄養士など多くのスタッフがかかわり、採算がとれない。アメリカでは300万円で、肥満外科手術は年間22万件と乳腺外科手術の20万件より多い。日本でも自由診療では200万円する。90万円では、手術をやればやるほど赤字になる。保険点数をアメリカ並みの3倍に上げれば、一気に普及する」とアドバイスした。
2016年11月3日、ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子」で肥満外科治療をしていた。人気番組で取り上げられると、認知度が高まるので、興味を持ってドラマを見た。
美人姉妹の妹が肥満外科治療のため、東帝大学に入院する。金沢の分院から、最先端の肥満治療を行う外科医が来る。外科医はカンファレンスで、胃バイパス術・胃バンディング術・胃内バルーン留置術の3つを上げ、胃バンディング術を選んでいた。世界のトレンドとなっているスリーブ状胃切除術
表示が抜けていた。
世界的には、胃バイパス術43kg減が45%と最も多いが、胃がんが多い日本人に適さない。スリーブ状胃切除術38kg減(胃をバナナ状の細い管にする手術)は、胃バンディング術29kg減(バンドで胃上部を縛る手術)に比べ、糖尿病改善効果も優れており、2008年5%から2013年には37%と急速に増えている。胃バンディング術は、2008年42%とピークを迎えたが、2013年には10%と急減している。
大門未知子(米倉涼子)は、妹の腕が細いことから副腎皮質ホルモン過剰による肥満を疑い、脳下垂体腫瘍によるクッシング病と診断し、脳手術を受けることとなる。女優さんの体型を見ると、過食による普通の肥満だった。
以前、仲間由紀恵主演の女医ドラマ「ナイトホスピタル」の取材を受けたことがある。内臓脂肪型肥満だと思っていたら、副腎腫瘍によるクッシング症候群とわかり、手術するというストーリーだった。「クッシング症候群は、体幹は太いが手足が細く、満月様顔貌で、肩が盛り上がる」と話したが、その時も普通に太った女優さんが演じていた。
肥満外科治療は、ドラマ「外科医 大門未知子」でも取り上げられた。高度肥満糖尿病に最も有効な治療法で、世界的に行われているが、日本で普及していない。保険点数を上げると、アジア並みに普及するだろう。