近畿内科地方会と肺がん・エイズ
2016年12月3日、大阪市天王寺区上本町にある大阪国際交流センターで、「第214回日本内科学会近畿地方会」が開催された。
午後1時から5時まで、5つの「教育講演」があった。座長は兵庫医大リウマチ・膠原病科の佐野統(はじめ)教授が1人でされた。演者5人のうち3人は、佐野教授が米国NIH留学時代に知り合った人だった。兵庫医大のリウマチ科患者数が日本一なのも、佐野教授の人脈の広さによるものかもしれない。
鳥取大学分子制御内科の清水英治教授による「肺癌診療:最近の進歩」では、「癌死の1位は肺癌になっている。都道府県別の肺癌死は、1位北海道・2位青森県と、喫煙率の1位北海道・2位青森県に重なる。
鳥取県は喫煙率も高くなく、大気汚染が強い大都市圏でもないのに、肺癌死は5位と高く、西日本は東日本に比べ肺癌が多い。黄砂が来ると、喘息・COPDが増悪する。黄砂に細菌・真菌・化学物質などが付き、PM2.5が肺に入って慢性炎症を起こし、肺癌が発生しやすくなったものと考えられる。
低線量CTスキャンによる検診は、肺癌を早期に発見することができる。米国の55~74歳・喫煙指数600以上を対象とした研究で、検診は死亡率を下げることが明らかになっている。免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ)は、非小細胞癌の生存率を上げるが、効く人と効かない人があるので、選別する研究が進められている」と話された。
午後2時30分、満屋裕明国立国際医療センター長による「内科医のHIV‐1感染症に対する治療薬の研究開発」があった。座長の佐野教授は「NIHで同じ釜の飯を食った縁で、わざわざ大阪まで来てもらいました」と紹介された。隣に座っていた大学時代のクラスメートは「ノーベル賞級の仕事をした人だ。元熊本大学の教授で、世界的な学者だ」と言う。
満屋センター長は「世界で3000万人の人が、エイズで亡くなった。アフリカではHIV感染者が20~30%の国もある。HIV感染は、3種類以上の薬の併用で開始する。根治はしないがエイズを発症せず、他人に感染させない病気になっている。
欧米では、1990年ごろからHIV感染が減少しているが、日本は増えつづけている。HIVは性感染が85%で、男性では25~34歳、女性では20~29歳での感染が多い。若い人への性感染予防教育が必要だ」と話された。
満屋氏は1985年米国NIHで、世界初のHIV治療薬AZTを開発し論文発表されたが、実験に協力してもらった製薬会社が無断で特許を取得。年間100万円の高価格でAZTを売り出したことに怒り、世界で2番目ddIと3番目ddCのHIV治療薬を開発されている。
満屋氏は製薬会社にライセンスを与える際、高額でない価格での販売を条件にされている。2006年には、米国研究者と共同開発したHIV治療薬ダルナビルが、途上国が特許料を払わずに使える医薬品として世界で初めて国連の機関に登録されている。
日本内科学会近畿地方会に行き、同じ釜の飯を食った仲間とたくさん会えた。肺がんはPM2.5が影響していること、HIV感染は若い男女で増加していることなど、肺がん・エイズに関する新しい知識を得ることができた。