天文学的な高額医療と病院赤字経営
2017年1月31日、トランプ米大統領はホワイトハウスで、大手製薬会社の経営トップらと会談し、薬価は「天文学的だ」と述べ、値下げを要請した。
出席したのはメルク、ノバルティス、リリー、アムジェン、ジョンソン・アンド・ジョンソンなどだ。トランプ氏は米国での生産拡大を求めた一方、「大胆に減税し、不要な規制を取り除く」と約束。新薬承認の迅速化も進め、企業にも利点があると説明した。
日本では、超高額薬品が保険適応されたため、病院経営などに大きな影響を与えている。厚労省によると2015年度の医療費は、前年比3.8%(1兆5000億円)増の41兆5000億円となっている。そのうち3分の2の1兆円が、医療の高度化(主に高額薬品)による。15年度はC型肝炎ウイルス治療薬のソバルティとハーボニーがともに1000億円超の売り上げを記録している。
学会や会合に行って友人に会うと、以前は医療の進歩の話をしたが、最近は病院経営についての話題が多くなった。大手病院チェーン理事長は「病院経営が、難しくなった。10年前に比べ、利益が20分の1になった」と言い、中堅病院チェーン理事長は「経営が苦しい。人件費を削減するしかない」と言う。
大病院院長は「病院の利益が少なくなり、老朽化した病院を建て替える費用ができない。いろいろ工夫して頑張っても、今の診療報酬では数%しか利益が出ない」と言い、中堅病院院長は「常勤を減らし、派遣を増やして、なんとか黒字になっている。派遣の人件費は、退職金など考慮すると、常勤の3分の2に減らすことができる」と言う。
2016年度の病院経営は、全国売上上位50法人のうち19法人が赤字になっている(東京商工リサーチレポート)。2012年度は50法人中3法人が赤字だったので、4年間で16法人が赤字に転落している。
2016年度の売り上げ1位は「日本赤十字社」で、1兆1736億円(赤字139億円、利益率-1.2%)、2位は「恩賜財団済生会」で、売り上げ6297億円(赤字1307億円、利益率-20.8%)、3位は「独立行政法人地域医療機能推進機構(厚生年金病院、社会保険病院)」で、売り上げ3586億円(赤字60億円、利益率-1.7%)、4位は「独立行政法人労働者健康安全機構(労災病院)」で、売り上げ3136億円(赤字79億円、利益率-2.5%)、5位は「徳洲会」で、売り上げ2066億円(黒字6億円、利益率0.3%)となっている。
高額薬品が保険適応されると、どこかに皺寄せがくる。病院の診療報酬が下がり、病院は赤字経営となり、老朽化した病院を建て直すこともできない。病院の正規雇用が減り、非正規雇用が増える。勤務医の時間外勤務に、正当な報酬が出なくなる可能性もある。
新しい抗がん薬、感染症治療薬ができることは、患者さんにとって喜ばしいことだ。しかし、医療の財源は限られている。多くの医師は、「超高額な薬品は保険適応すべきではない。皆保険制度が崩壊すると、弱者は最低限の医療を受けることができなくなる」と考えている。
天文学的な高額薬品の保険適応は、限られた財源の中、医療全体に歪みを生ずる。病院の多くが赤字経営に陥っている。効果のある安い薬価の新薬を早急に開発し、迅速に新薬が承認されることが求められる。