映画「この世界の片隅に」と国民皆保険制度の崩壊
2017年2月6日、キネマ旬報1位に輝いた片渕須直監督アニメ映画「この世界の片隅に」を観に行った。
午後5時50分、館内は中年男性・中年女性・小学生連れの夫婦が多い。映画は、広島県呉市を舞台に、太平洋戦争中の普通の人の日常生活を、丁寧に描いている。主人公のすず(のん)が幼少時に住んでいた江波など、広島市内の風景が随所に出てくる。
お米も配給で、御飯も十分に食べることができない当時の状況を見て、何不自由ない今の時代に生きていることの幸せを感じた。すずは地雷の爆発により、右手を失う。国民皆保険制度のない時代、戦争中の手術代は、個人で払っていたのか、国が払っていたのかなどと思った。
国民皆保険制度が、1961年にできてから56年になる。それまで医師の収入は不安定だった。国民皆保険制度が崩壊したら、どうなるのだろうと考えた。私の両親は、戦前から広島県庄原市で歯科医院を開業していた。庄原市の患者さんは80%が農家の人で、お金に困っている人は、お米や白菜・大根などの農作物を持ってこられていた。
日本の医療費は40兆円を超え、2023年には51兆円になると政府は試算している。日本の医薬品の貿易赤字は、2兆5000億円になっている。銀行OBの友人は「経済のことをあまり知らない人達が、超高額薬品を保険適応にし、薬価を決めている」と言う。
日本のメディアは信用できない。新聞記者やテレビ局の人が言うこと(メタボ教室第594段「抗がん薬の落とし穴」)は信用できるが、新聞記事やテレビの報道は、製薬会社などスポンサーの影響を受けている。メディアは起きていることの60%ぐらいしか報道していない。
2月10日午後6時20分から、大阪府高槻市で太極拳をした。太極拳仲間の商社OBに「日本の国民皆保険制度は近く崩壊し、自由診療になるのか」と聞かれた。私は「このままでは、皆保険制度が崩壊するのは、時間の問題だ」と答えた。医師より商社の人の方が、日本の医療事情をよく知っていることに驚いた。
60歳以上の開業医は、借金返済も終え貯蓄もあるので、国民皆保険制度がどうなろうとあまり影響を受けない。しかし、40歳前後のこれから開業しようとしている若い医師は深刻に受け止めている。いつ皆保険制度が崩壊してもいいように、自由診療でできる技術を学んでいる。
日本病院会雑誌2017年1月号には、「いよいよ、日本の医療制度そのものが、"今の税と保険料と窓口負担の3つだけで維持されるか"非常に厳しい状況になってきた。国民皆保険制度を維持するためには、医療介護負担料の増加・保険適応の再検討・保険外医療の拡大・医療特区・新しい医療技術の開発・ロボットの活用・外国人患者の受け入れなどが必要だ」と書いてある。
「国民皆保険制度(税と保険料で維持されている)が崩壊する日は近い」と、若い医師は危機感を持っている。保険適応や薬価を決めるメンバーには、1兆円単位で物事を考えることができる人が入った方がいい。