糖尿病近畿地方会とサルコペニア・膵再生医療・低血糖
2017年11月11日、大阪国際会議場で「第54回日本糖尿病学会近畿地方会(池上博司会長)」が開催され、2000名が出席した。
午前10時30分、一般演題「肥満(前田法一座長)」のセッションがあった。川崎病院内科の村井潤らは「内臓脂肪蓄積2型糖尿病患者における握力低下者の臨床的特徴」のタイトルで、「2型糖尿病入院146例の握力・骨格筋量・内臓脂肪面積を測定した。内臓脂肪蓄積・握力低下群では正常群に比べ、心血管疾患の有病率が有意に高率(44% vs 15%)だった」と報告された。
フロアから私は「先月あった日本肥満学会のシンポジウムで、"内臓脂肪型肥満者の筋肉量は変わらなかったが、握力が低下していた。内臓脂肪蓄積は筋肉の質を低下させ、サルコペニアを引き起こす可能性がある"と報告があった。内臓脂肪から出るアディポサイトカインの異常が、筋肉の質を低下させ、一方で心血管障害を起こすのではないか」とコメントした。
午後0時、順天堂大学代謝内分泌内科の宮塚健准教授によるランチョンセミナー「糖尿病再生医療UPDATE-膵細胞の個性と可塑性」があった。
宮塚健准教授は「必要なインスリン分泌ができる再生膵細胞はできたが、血糖上昇に十分反応する膵細胞はできていない。現在の一番の課題は、免疫反応が出ないようにすることだ。
東大の山口智之先生は、膵臓欠損ラットの体内にマウスの膵臓を作り、そこから単離した膵島を糖尿病マウスに移植することで糖尿病の治療に成功された(Nature 2017)。将来、ブタやチンパンジーで作った膵臓を、ヒトに移植できるようになるかもしれない」と講演された。
膵臓のインスリン分泌は、体液性と神経性の両方からコントロールされている。膵β細胞(インスリン分泌)は視床下部腹内側核から迷走神経を介して、膵α細胞(グルカゴン分泌)は視床下部の室旁核から迷走神経を介して、直接刺激されている(Tokunaga K, et al.: Endocrinology 1986
表示)。脳・神経と膵臓とネットワークなしで、食事毎に変化する血糖のコントロールが可能なのか、まだまだ未知の部分が多い。
午後3時20分、一般演題「低血糖(津川真美子座長)」のセッションがあった。大阪警察病院糖尿病内分泌内科の秦誠倫氏らは「MRI画像の継時的変化と評価し得た低血糖脳症の一例」のタイトルで、「施設入所中の女性が、昏睡で救急搬送されて来た。インスリン治療中で、26mg/dLの低血糖によるものだった。頭部MRIで両側大脳白質と大脳皮質の一部に障害を認め、意識障害が遷延した。広域な白質病変を伴う低血糖発作は予後不良である」と報告された。
フロアから、「低血糖は、何時間ぐらいつづいたのか」の質問に、「夕方から翌日までと考えられる」と答えられた。市立病院時代、私も同じような経験をしたことがある。若い女性が昼過ぎ、昏睡で救急搬送されて来た。インスリンによる低血糖だった。その女性も数年間の記憶が戻らず、予後不良だった。
内臓脂肪蓄積は、握力低下などサルコペニアと関連している。膵再生医療が可能になるには、膵島の脳・神経コントロールなど課題が多い。重症低血糖は、脳に不可逆性の変化を起こすことがあり注意が必要だ。