若年性認知症と天才の脳
2018年1月22日、大阪市北区にある"ホテルグランヴィア大阪"で、「第61回大阪産業医学研究会」があり、110名が出席した。
午後6時30分、大阪大学精神科の池田学教授による特別講演「働く人たちのメンタルヘルスーうつ病と若年性認知症について」があった。
池田学教授は「企業で長期休職している社員の半数は、うつ病や認知症などメンタルヘルスだ。若年性認知症(65歳未満)の多くは、アルツハイマー型認知症と前頭側頭型認知症(ピック病)で、高齢者に見られるレビー小体型認知症は少ない。
一流会社の役員が、コンビニで少額の万引きをしてつかまるのは、前頭側頭型認知症のことが多い。前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉など行動を抑制する部分が障害される。病識の欠如、脱抑制・反社会的行動が特徴的で、発症年齢は65歳までの人が多い。
最近、よくテレビに出てくるゴミ屋敷は、前頭側頭型認知症のことが多い。高速道路を逆行する認知症は、アルツハイマー型認知症では早く気付くので遠くまで行かないが、前頭側頭型認知症では、10km以上逆行する場合もある。
産業医が、診断のために家族や本人に確認するポイントは、社会的なマナーの低下(電車待ちの列に割り込む、葬式中に大声で笑う)はないかなど、よく聞くことだ。前頭側頭型認知症は難病に指定されており、疑いがあれば精神科認知症専門外来に紹介するとよい。若年性認知症の診断は、高齢者認知症と違ってCTやMRIではわかりにくいが、SPECTで診断できる」と話された。
午後8時から懇親会があり、松澤佑次大阪産業医学研究会前会長は「今日は、記憶力が低下する認知症の話だったが、天才的な記憶力を持つ人に、和歌山県田辺市出身の南方熊楠がいる。蔵書家の家で数冊本を読み、自宅に帰って記憶していた文章を書写していた。
南方熊楠の脳は、阪大医学部に保存されている。熊楠自身が"後世の人に、自分の驚異的な記憶力がどこから来ているのか脳を調べて欲しい"と希望した。国立科学博物館の"南方熊楠生誕150周年記念企画展"に行くと、私が新聞に書いた記事"南方熊楠は、アスペルガー症候群だった?"が展示してあった」と挨拶された。
後輩医師に「本を丸暗記できるのは、サヴァン症候群だったのではないか。ニュートン(2014年2月号)に"天才の脳"の特集があり、サヴァンが載っている。サヴァンは右脳が異常に発達している」と話すと、後輩医師は「サヴァンだと、あんなに社会的な活動ができなかったのではないか。アスペルガーだと思う。・・アインシュタインの脳も残っている」と言う。
「アインシュタインの脳は、前頭葉の皺が多く、脳梁(左右の大脳半球をつなぐ神経の束)が厚かった」と話すと、女性後輩医師は「南方熊楠は、いわゆるギフテッドと呼ばれる人ですよね。ビル・ゲイツのようにアメリカだったら成功するが、今の日本だったら排除される人ですよね。(熊楠は)昔の時代に生まれてよかった」と言う。脳はまだ謎に満ちた臓器で、みんな興味を持っている。
前頭側頭型認知症など若年性認知症は、家族にとって負担になるだけでなく、会社や国にとっても大きな損失だ。治療と予防法の確立が待たれる。