ドラマ「ブラックペアン」とインパクトファクター
2018年5月21日、医師仲間と食事をしながら雑談をした。
テレビドラマ「ブラックペアン」が話題になった。原作は海堂尊の小説「新装版ブラックペアン1988」で、ペアンとは止血鉗子のことだ。ドラマの主役は、傲慢な天才外科医・渡海征司郎(二宮和也)で、東城大の佐伯清剛(内野聖陽)と帝華大の西崎啓介(市川猿之助)が、外科学会理事長選をインパクトファクター(IF)で争っている。
中堅医師は「ブラックペアンが、リアルで面白い。先週はダヴィンチ手術がダーウィン手術となっており、手術装置にもダーウィンと書いてあった」「二宮の演技がうまい」と言う。同僚医師は「若い医師は、ありえない話だと思っているが、昔は教授が絶大な力を持っていた。渡海のように、病院に住み着いている医者もいた。昭和の頃が懐かしい」と言う。7人中5人の医師が"ブラックペアン"を観ており、そのうち私を含め3人が録画していた。
私は「30年前、教授は絶大な力を持っていたが、2004年"新研修医マッチング制度"導入によって若い医師の人事権を失い、教授の力は弱くなった。当時、MR(製薬会社の医療情報提供者)はいたが、CRC(臨床研究コーディネーター)はなく、ドラマでは現状と乖離している所も多い。学会の理事長選でIFが使われることはなく、IFは教授選で業績の評価として使われていた」と話した。
IFとは、特定のジャーナルの論文が、どれだけ引用されたか平均値を出したもので、点数が高いほど多く引用される一流雑誌ということになる。
5~6年前、ディオパン事件の時、K医大の捏造論文について新聞社から取材を受け、喫茶店で2時間話をしたことがある。
私は「教授選では、IFで評価されることが多い。関西では、各候補が提出した15論文のIFの合計で、業績を評価している大学がある。薬の治験の論文は、製薬会社が集計し、論文の下書きも書いてくれることが多いので、少ない労力でIFを増やすことができる。薬の治験でいい成績の出た論文は、製薬会社にとっても宣伝になるので、捏造したのだろう。
出版社にとっても利益になるのでアクセプトされやすい。製薬会社が大量に別刷りを買い取ると、出版社に1億5000万円~2億円入るとも言われている。私の論文"CTスキャンによる内臓脂肪測定法
表示"は、1983年に国際肥満学会雑誌(IJO)に掲載され、数多くの論文に引用されたがIJOのIFは2.0だった。IJOの別刷りは一部300円で、300部注文し9万円支払った。製薬会社のMRの人が世界各国の医師に配る場合、別刷50万部とすると300円×50万部で1億5000万円となる。
IJOと同じエルゼピア社から出ている"ランセット"は、IFが20.0ある一流医学雑誌だ。出版社にとっては、利益の少ない論文より、スポンサーのついている論文を採用する場合があるかもしれない。一流雑誌に載っていても、玉の論文ばかりではなく石の論文もある」と話した。
インパクトファクターは、載った論文の雑誌の評価で、その論文の評価ではない。IFを単純合計するのは簡単だが、IFの低い雑誌の論文でも、引用回数の多い論文がある。手間はかかるが、業績の評価は個々の論文の引用回数を調べた方がいい。