内臓脂肪と脂肪を燃やすBAT
2018年6月26日午後7時、Aテレビで「名医とつながる!たけしの家庭の医学【内臓脂肪を減らす細胞BAT】」を観た。
内臓脂肪という言葉は1980年私が作った言葉で、メディアで取り上げられると、新しい発見はないのか、間違ったことを言っていないか、ついつい見てしまう。当時は、垂井清一郎阪大2内教授から「もっと、スマートな言葉はないのか」、馬場茂明神大2内教授から「お腹の中なので、内蔵脂肪の方がいいのではないか」と指摘を受けたが、38年経ちすっかり定着した。スウェーデンなどヨーロッパでは腹腔内脂肪、カナダでは深部脂肪と呼ばれている。
BATはbrown adipose tissue(褐色脂肪組織)の略で、げっ歯類では豊富にあり、ミトコンドリアが多いため褐色になっている。BATは、冬眠動物には必須の組織で、BATで体を暖かくして冬眠から目覚める。番組では最初に、杉原甫佐賀医大教授提供のBAT電顕像が出た。杉原教授は肥満病理学の第一人者で、脂肪組織電顕像はいつ見ても美しい。
斉藤昌之北大教授提供のPET-CT像が出た。斉藤教授はBAT研究の第一人者で、米国ブレイ門下の先輩になる。斉藤先生は、ヒトでは存在が明確でなかったBATをPET-CTを用いることによって、ヒトでもBATが頸動脈周囲・鎖骨上部・脊椎周囲・腋下に存在し、加齢とともに減少し、寒冷刺激に反応することを報告されている。
私が米国南カリフォルニア大学
表示留学をした1983~1985年、視床下部性肥満の研究を主に、BATの研究もしていた。LH(視床下部外側野:摂食中枢)の破壊は、摂食量が減少するとともに、BAT活性を上昇させ脂肪を燃焼させた
表示(メタボ教室第556段「二つの満腹中枢」)。
食欲抑制剤のフェンフルラミンも、脳の視床下部に作用して摂食量を減らし、BATを活性化させて脂肪を燃やしていた(ルピアン
表示、徳永他、1986
表示)。ヒトでは、月5~6kgの体重減少があったが、心臓弁膜症や肺高血圧症の合併症が出たため、発売禁止となった。
日本に帰国してからも1993年まで、阪大2内でBATの研究をつづけた。B社のβ-3アドレナリン受容体作動薬はBATを活性化させ、脂肪組織を燃焼させて動物には著しい効果があったが、ヒトではあまり効果はなく発売されなかった。T製薬のβ-1アドレナリン受容体作動薬も、動物実験ではBATを活性化させ燃焼作用があったが、頻脈・血圧上昇の副作用があり、ヒトでは大量投与しないと効果がないことから開発を中止した。
その後2001年、フェンフルラミンは、中国でやせ薬の漢方薬として日本に輸出され、亜硝酸を加えて発がん性のあるN-ニトロソ化合物になっていたため、日本で死者と2000人以上の重篤な肝機能障害を引き起こし出た(メタボ教室第16段「やせ薬と肥満」)。
番組では、BATを増やすセンサーが消化器にもあるとし、3つのグループの食品が紹介されていた。唐辛子・黒胡椒・生姜・にんにく・カラシ・ワサビなどはBATを活性化させるが、食欲も増すので注意が必要だ。
現代の栄養学とは程遠いダイエット番組が多い中、まともな番組だった。BATを増やし活性化させる薬剤は、食事療法・運動療法なしでも減量できる夢のような薬だ。副作用のない、抗肥満薬が開発されることが待たれる。