ドラマ「グッド・ドクター」と小児外科医・記憶力
2018年7月12日木曜日午後10時、Fテレビでドラマ「グッド・ドクター【最高にピュアな小児外科医誕生!】」第1話を観た。
主人公の研修医・新堂湊(山崎賢人)は、自閉症でコミュニケーション障害がある一方、驚異的な記憶力を持つサヴァン症候群でもある。新堂湊は小児外科(小児外科医は医師全体の0.3%しかいない)に入り、子供たちの命のため、周囲と軋轢を生じながら、成長していく。グッド・ドクターは韓国ドラマが原作で、米国でもドラマ化されヒットしている。日本では、あり得ないような話だが、ストーリーがしっかりしていて面白い。
サヴァンは、フランス語の"知る"からきている。サヴァンの人は、音楽・美術・数学など種々の分野で能力を発揮するとともに、地図・歴史・時刻表・本を丸ごと1冊分(メタボ教室第41段「創造力」)など、ぼう大な情報を記憶できる。一般の人が大脳皮質に記憶を保存するのに対し、サヴァンの人は脳の内部にある"大脳基底核"に記憶を保存しているとの説もある(Newton 2014年2月号)。
ドラマを観て、大学の同級生100名中、唯一の小児外科医になった井村賢治君のことを想い出した。井村君は子供好きで、子供ファーストのまさにピュアな小児外科医だった。
井村賢治君とは、1971年末から大学4年の基礎配(基礎医学の研究室で、教官と一緒に研究すること)の時、生理学第2講座で3か月間一緒だった。井村君は毎日「子供たちが園で待っているから」と言って、寄り道をせず園に直行していた。井村君とは吉井直三郎阪大第2生理学教授らと、電車に乗って兵庫県加西市北条に行き、歩いて(写真
表示先頭吉井教授、左から4人目白ジャンバー眼鏡井村君、右端私)羅漢寺
表示にある"北条五百羅漢"を観に行ったことがある。
第2生理で私は3か月間、「記憶に対する海馬の役割」として、one-trial learning(一回施行学習)の研究をした。大きな箱の中に電流が通った金属の棒を並べておく。箱の真ん中に木の台を置き、そこにラットを載せる。ラットが台を降りると、ラットの体に強い電流が走り、恐怖心から2度と台から降りなくなる。ラットの脳の海馬に、あらかじめ電極を挿入しておき、台から降りると同時に海馬に電流を流すと、その時の記憶が固定できず、何度でも台から下に降りていた。記憶には、海馬が重要な働きをしていることがわかった。
卒業後、クラス会での井村君の「雨にも負けず、風にも負けず、・・・、慾はなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている。東に病気の子供あれば、行って看病してやり、・・・、みんなにコンビニ外科と呼ばれ、褒められもせず、苦にもされず、そういう医者に私はなりたい」という言葉が、私の頭の中の記憶に鮮明に残っている。
小児外科医の仕事は、激務だ。井村君は、府立母子センターに勤務していた2000年6月9日50歳の若さで亡くなった。6月11日午後0時30分から千里会館で行われた葬儀には、残された息子さん3人の同級生(男子学生・女子学生)が大勢集まり、涙を誘っていた。
ドラマ「グッド・ドクター」を観て、子供好きだった同級生の小児外科医を想い出した。人も動物も強烈な出来事は、一度体験しただけで、ワン・トライアル・ラーニングによって、一生記憶に残っている。