日本の財政再建と小医・中医・大医
2018年9月20日、大阪市中央区にある大阪倶楽部で異業種の会があった。
午後6時、上方文化評論家の福井栄一氏による「キツネの文化史」の講演があった。狐の語源(黄恒、息常、来つ寝よ)、稲荷神社、おさん狐から"きつねうどんの関西と関東の違い"まで幅広く話された。
午後7時、懇親会があった。前菜の"鮪と帆立のサラダ
表示"、スープ、魚料理、肉料理のビーフステーキを食べながら話をした。
設計会社社長さんが「西日本豪雨で被災した広島県坂町へ、息子と2日間行ってボランティアをしてきた。橋や道路の復旧には、1年以上かかるだろう」と話されると、議員さんは「新原さんは呉市長になったばかりなのに、災害があって大変ですね。テレビで新原さんが、安倍総理の隣りに映っておられましたよ」と言われた。新原芳明呉市長は、数年前まで7年間この会のメンバーだった。
午後9時、"NHKニュースウォッチ9"を見ていると、今日自民党総裁選に勝利した安倍晋三首相にアナウンサーが単独インタビューをしていた。「日本は年金・医療・介護など社会保障費が増えつづけ、大幅な財政赤字になっている。日本の財政をどう建て直すのか」との質問に、安倍総理は「老後をいかに健康に過ごすかが重要だ。高齢者が健康になれば、医療費は削減される。病気にならない取り組みが、すでに広島県呉市で行われている」と答えられていた。
現在の日本の国は、大幅な財政赤字に病んでいる。私の出身の大阪大学医学部の前身は、大阪市中央区北浜にある緒方洪庵の「適塾」から始まっている。適塾の塾生だった福井藩藩士・橋本左内は、福沢諭吉や大村益次郎らとともに適塾で学び、福井藩の財政を建て直した。橋本左内は、西郷隆盛や坂本龍馬らとともに幕末に活躍し、25歳の若さで安政の大獄で処刑されたが、「小医は患者の病を治し、中医は医者を教育し、大医は国の病を治す」という言葉を残している。
財政赤字の原因は、税収の少なさと年金・医療・介護など社会保障費の増大だ。いかに医療費の増加を抑制して財政を建て直すかは、大医の務めだ。目の前の患者さんを治すことも大事だが、病気になる前に生活習慣を改善して健康寿命を延ばすことが重要だ。内臓脂肪蓄積を基盤としたメタボリックシンドロームの対策も、大阪大学医学部から発信された。薬に頼らず、食事と運動と禁煙で生活習慣病を予防し、医療費を削減して財政赤字という国の病を治すことに貢献している。
しかし、超高額医薬品や高度医療などの出現により、2016年の国民医療費は42.1兆円、1983年の14.5兆円に比べ、33年間で27.6兆円増加し、2.90倍になっている。一般会計歳出は50.6兆円から97.5兆円と46.9兆円増加したのに対し、一般会計税収は32.4兆円から55.5兆円と23.1兆円しか増加していない。
33年間で税収は23.1兆円しか増えていないのに、国民医療費は27.6兆円増加する異常事態となっている。医師の間では、「このままだと、国民皆保険制度はいずれ崩壊する」と憂慮されている。自分の健康は、自分で守る時代がいずれやってくる。
「小医は患者の病を治し、中医は医者を教育し、大医は国の病を治す(財政再建)」、日本にとって小医・中医・大医、どれもが必要な医師だ。