スタチン育ての親ー日本のジェンナー
2019年1月12日、リーガロイヤルホテル大阪で「第67回大阪大学第二内科同窓会」が開催され、200名が出席した。
午後4時から総会があり、下村伊一郎阪大2内同窓会会長は「同窓会員の山本章先生が1月7日、87歳でご逝去された。世界的なコレステロール研究者で、ノーベル賞を受賞したGoldsteinやBrownなど世界の研究者20名から、山本先生の死を悼む弔電やメールが届いた」と挨拶された。
山本章先生
表示(写真
表示左端)は、阪大2内脂質研究室のチーフをされた後、国立循環器病研究センターに移られ、国循研究所副所長をされた。定年後も87歳まで、老健施設長をされていた。80歳以降も「ゆとりなき社会への提言
表示(2012年)」、「経験から科学する老年医療(2013年)」、「老年医療を通じて知る老化の予防(2016年)」を出版。つい2か月前の2018年10月末には「横断的に見る老年医学
表示」の本と手紙が送られて来たばかりだった。
山本章先生の通夜は、1月10日(木)午後7時からあり、下村伊一郎会長、松澤佑次前会長(国際動脈硬化学会理事長)ら、アブラヤ会(メタボ教室第705段「アブラヤ会」)の主だった人達が列席していた。
以前から知っている親族の方に「何か病気があったのか」聞くと、「元気にされていて、1月7日入浴中に突然倒れ、最初は意識があったが、救急車の中で息を引き取った」とのことだった。遺体は闘病生活がなかったためか、2018年6月の阪大循環器内科同窓会で、懇親会の挨拶と乾杯の音頭をとられた時と変わらない、安らかな顔をされていた。
午後7時から懇親会があり、松澤佑次前同窓会会長は「山本章先生は脂質研究の恩師で、遠藤章東京農大教授が発見されたスタチン(コレステロール合成阻害薬)を世に出された。製薬会社は、最初スタチンの価値が分からなかった。山本章先生は、治療法がなかった家族性高コレステロール血症患者さんのため、自らスタチンを服用された。日本のジェンナー(種痘を開発した人)だ」と挨拶された。
最初、ML236 B(スタチン)の用量がわからず、大量に服用されたため、山本章先生は腰を抜かされた。コレステロールは細胞膜の石垣の役割をしているので、コレステロールが極端に低下すると細胞が壊れ、CPK(筋肉内の酵素)が上昇し、横紋筋融解症を起こす。現在は、副作用の出ない使用量になっている。
山本章先生は、コレステロール低下薬を厚労省に働きかけ、スタチンは認可され、保険適応になっている。スタチンは、今では世界中の人が服用し、心筋梗塞や狭心症の治療と予防に役立っている。
1970年代後半、東京の学会で山本章先生が、世界で初めてスタチン(ML236B)のヒトでの効果を発表された時、「スタチンは、ペニシリンに匹敵するノーベル賞級の薬だ」と私たちに話された。吹田市千里にある国循へ山本章先生を訪ねて来たゴールドシュタインとブラウンが、「SENRIは、日本のコレステロール研究のメッカだ」と言われたことをよく覚えている。
スタチン(コレステロール低下薬)育ての親、山本章先生が87歳でご逝去された。家族性高コレステロール患者のため自ら服用し、ジェンナーのような医師だった。生涯働き学びつづけられ、不健康期間ゼロの人生を送られた。