「医師の働き方改革」と時間外過重労働
2019年2月1~2日、新横浜プリンスホテル
表示で「第47回日本総合健診医学会(林務会長)」が開催された。
2月1日午後2時10分、ニッセイ情報テクノロジー社の御手洗洋一氏による特別講演「医療現場の働き方改革を考える」があった。
講演に先立ち、座長の高橋敦彦日本大学短期大学部食物栄養学教授は「病院勤務医の時間外労働の上限を"年間1900~2000時間"にする案が出されている。1900~2000時間は、過労死ラインの2倍で、医師を人としてみていない。私が研修医の頃、重症患者を持ち3日3晩診療し、その間3時間しか眠らなかった。土曜日に帰宅し、目覚めてテレビをつけると"サザエさん"をしていた。24時間以上眠っていた。そのまま眠りつづけていたら、亡くなっていたかもしれない」と述べられた。
座長の話に、私は強く共感した。一つは、3日間眠らずに働き続けると命の危険があることだ。大学時代からの友人は、3日間徹夜で働きつづけ、若くして不整脈で突然死した。
もう一つは、年間2000時間の時間外労働をつづけると、どこかの時点で体に不調が出るということだ。私の場合、大学病院の仕事が年々増え、39歳から2000時間の時間外労働(バイト、当直含む)になった。42歳の頃は、1週間つづけて夜12時過ぎまで夕食抜きで働くこともあり、過重労働になった。不整脈が多発し始め、ホルター心電計をつけると、心室性期外収縮が1日1万8850回出ていた。
市立病院では、時間外勤務(日当直含む)が年間1500時間に減って不整脈は改善したが、47歳の時体調を崩した。年齢を重ねるごとに体力は落ちていくので、可能な時間外労働時間は減少していく。55歳になって、時間外労働ゼロの職場に移り、16年間の過重労働から解放され、自由な時間を持つことができ、健康的な生活を送ることができるようになった。
御手洗洋一氏は「"働き方改革"が2019年4月より施行され、残業の上限は月45時間、年360時間。最大でも単月100時間未満、年720時間以内となっている。勤務医は例外扱いで、厚労省は2019年1月11日、2024年4月から、病院勤務医の時間外労働の上限として休日を含み年間960時間、月100時間。さらに35年度末までの経過措置として、"地域医療確保暫定特例水準"を設け、対象医療機関を限定した上で年1900~2000時間以内に設定する案を提示した」と話された。
私たちは、10年前から厚労省に、「病院の当直は、寝るだけの当直ではなく、時間外労働と同じだ。当直も、勤務時間に入れるべきだ。労働基準局は、医師の過重労働にも関心を持ってほしい」と働きかけてきた。
勤務医の時間外労働の上限が"年1900~2000時間"は、過労死ライン年960時間をはるかに超えて2倍近くとなっている。人にはそれぞれ器がある。2000時間以上時間外勤務をしても平気な人もあれば、1000時間で過労死する人もある。その器は、加齢とともに小さくなっていく。
大部分の病院勤務医は「医者は労働者だ。医師だけ特別に、長時間労働を認めるのはおかしい」と考えている。このまま長時間労働を容認すると、過労死したり燃え尽きる医師が減らない。適切な時間外勤務の上限設定が必要だ。