「大腸がん検診の現状」とロボット手術
2019年2月16日、豊中市新千里東町にある"千里ライフサイエンスセンター"で「第25回大阪がん検診治療研究会(阪本康夫代表世話人)」が開催された。
午後2時30分、大阪大学消化器外科の松田宙講師による「最新の大腸がん外科治療~ロボット直腸癌手術」の講演があった。松田講師は、大阪府立急性期医療センター(福並正剛院長)でロボット手術を導入し53例、阪大病院を合わせた107例(症例数西日本一)の直腸癌に対し、ロボット手術を施行されている。
松田宙講師は「2018年4月から食道癌・胃癌・直腸癌に対するロボット手術が保険収載となり、急速に普及している。阪大病院は昨年11月、最新式のダヴィンチを購入し、3D画像の下、精緻な手術をより容易に行えるようになった。ロボット手術は腹腔鏡手術に比べ、短期間で技術を習得できる」と講演された。
フロアから、「ロボット手術は高い。採算は合うのか」との質問に、松田講師は「腹腔鏡手術の材料費は45万円で、ロボット手術の材料費は90万円と高かったが60万円まで下がってきた。ダヴィンチの最新式の器械は手が細くなり2億7000万円するが、旧式のダヴィンチの手だけ交換すれば1億7000万円と安い」と答えられた。
休憩時間に、松田宙講師の所に行き「地方は医師不足で困っている。地方の基幹病院で、ロボット手術での遠隔治療はできないのか」聞くと、「地方での遠隔ロボット手術はできるが、ダヴィンチを作っているインテュイティヴ・サージカル社が許可してくれない」と答えられた。
特別講演は、青森県立中央病院医療顧問で、青森県がん検診管理指導監の斎藤博氏による「およそ半世紀を迎えた日本のがん検診の評価と将来展望」だった。斎藤博氏は、長い間、国立がん研究センター検診部部長として日本のがん検診の国策を担い、大腸がんスクリーニングの"便潜血2日法"を確立されている。
斎藤博氏は「日本のがん検診は1960年代の胃がん、子宮がん検診への国庫扶助に始まり、半世紀過ぎたことになる。がん検診は海外での子宮がん、乳がん、大腸がんの年齢調整死亡率を低下させた。米国での大腸がん死亡率は減少しつづけているが、日本での大腸がん死亡率は横ばいになっている。
これは、米国では70%の人が大腸がん検診を受けているのに対し、日本では一部の人が繰り返し受診しており、全体に行き渡っていないからだ。米国における大腸がん死亡率の減少の要因は、リスクの改善が35%、大腸がん検診が53%、治療の進歩が12%となっている」と講演された。
フロアからの「今後、大腸がん検診はどうなるのか」との質問に、斎藤博氏は「大腸がん検診は、受診率を上げることではなく、これまで一度も受けていない人を、どうやって受診してもらうかが重要だ」と答えられた。
また、「大腸カメラができる医師は限られており、医療費のこともある。何歳まで、大腸がん検診を受ければいいのか」との質問に対して、斎藤博氏は「ポリープを全て除去すれば、大腸がんは10年間ほぼ発症しない。高齢者は、大腸カメラの検査で体調を崩すなど不利益もある。個人差もあるが、平均寿命を加味すれば、75歳ぐらいではないか」と答えられた。