海外出張者・旅行者の健康管理
2019年2月23日、大阪市東淀川区にある"CIVI研修センター新大阪東"で「第24回海外勤務者健康管理研修会(日高秀樹座長)」があった。
午後2時、東京医大渡航者医療センターの濱田篤郎(あつお)教授による「海外出張者の健康管理対策」があり、「風邪薬・下剤・抗菌薬など携帯医薬品は、錠剤やカプセル剤を選ぶこと。てんかんや喘息のある人は、薬を持って行くこと。睡眠薬のサイレースとロヒプノールは、米国では禁止薬物となっているので持参しないこと。
途上国に滞在すると、半数が下痢を発症する。病原体の80%は細菌(毒素原性大腸菌など)によるので、抗菌薬(キノロン、アジスロマイシン)を準備しておくとよい。途上国では、氷や水道水は使わず、ミネラルウォーターを飲むこと。途上国の国立病院は貧しい人たちのためにあり、大行列で2~3日病院の前で待たされることがある。急病になった時は、少々高くても国立病院より私立病院を選び、私立病院の救急車を呼ぶこと。
航空機内の疾患には、エコノミークラス症候群があり、深部静脈血栓症が1000人に1~2人起こる。航空機内の気圧は80%と低く、狭心症を起こしたり、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を悪化させたりする。
ドクターコールは600フライトに1件で、失神33%、消化器系15%、呼吸器系10%(JAMA 2018)となっている。ドクターコールの処置をして不幸な結果になっても、航空会社が全て責任をとるので、ドクターは訴えられることはない」と講義された。
大学時代のクラスメートは「AHA(米国心臓病学会)からの帰路、失神者のドクターコールがあり、起立性低血圧と診断。横に寝かせ水分を与えると回復した。航空会社から、記念品をもらった」と言っていた。阪大2内の後輩医師は、ドクターコールで尿管結石と診断。持っていたボルタレンで患者の痛みが止まり、エコノミークラスからビジネスクラスに席を上げてもらっている。
濱田篤郎教授は、また「海外に80万人の駐在者がいる。戦後、海外駐在者は増えつづけていたが、昨年初めて減少に転じた。駐在(1カ月以上)から、出張(1カ月未満)に切り換えたためだ。アンケート調査で、30%以上の企業が、"駐在から安い出張にすることを考えている"と回答している。
海外出張が多い例では、時間外労働時間が基準に達していなくても、過重労働として認められる場合がある。東京高裁は、死亡前の10か月間で海外出張10回、計183日の例で、海外出張という質的な面から過重労働を認めた」と講義された。
銀行OBの友人に聞くと「家族の費用など加わり、駐在の方が出張より高くつくことがある。フランス、ドイツなどでは帰国時、日本と違い借り手が家の修理費を払わないといけない。海外出張時の移動時間は、勤務時間と認められていない。ブラックな企業では、時間外勤務時間がオーバーしそうになった社員を、みなし労働として海外出張させている」と教えてくれた。
みなし労働時間制とは、労働基準法において、"その日の実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めておいた一定時間を労働時間とみなす制度"だ。産業医は、"海外出張が多い社員が、過重労働になっていないか"チェックする必要がある。