内臓脂肪研究の歴史とLancet 2019
2019年7月27日、大阪市北区にある"ホテルグランヴィア大阪"で「第15回高尿酸血症・メタボリックシンドロームリサーチフォーラム」が開催され、140名が出席した。
午後2時から、一般演題が8題あり、午後4時20分、下村伊一郎大阪大学内分泌代謝内科(第二内科)教授による特別講演「メタボリックシンドロームとアディポネクチンそして高尿酸血症」があった。
座長の益崎裕章琉球大学内分泌・血液・腫瘍内科(第二内科)教授は「下村教授の講演は、毎回新しい研究が加わり、楽しみにしている」と紹介された。同じ内容の講演は2度としないというのが阪大2内循環器脂質研の伝統で、私も講演するときは、いつも最新の研究データを加え発表していた。
下村伊一郎教授は「肥満には、内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満
表示があり、内臓脂肪型肥満に心血管障害や2型糖尿病などの合併が多いことが、大阪大学内科の松澤・徳永・藤岡(
表示1986年 イスラエルにて)らによって明らかにされた。このことは、今月(2019年7月)10日のLancetランセットに掲載された。
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の病態に、アディポサイトカインの産生異常が大きな役割を果たす。アディポネクチン(APN)は、脂肪細胞特異的に分泌され、多量体APNが臓器保護作用を発揮する。多量体APNが、細胞膜表面に存在するT-カドヘリンを介して、抗動脈硬化作用を発揮する。
APN/T-cad複合体は、細胞表面から内部に取り込まれ、エクソソーム産生の場である細胞内多胞体に集積し、細胞内にたまる有害物質を排出することで、細胞・組織の恒常性を保っている。APNは、べとべとつくバンドエードや室内のゴミを取り除くダスキンと同じような働きをしている。低APN状態は、種々の保護作用に障害を受け、多数の代謝異常・臓器障害が進展する。
内臓脂肪と血中尿酸値には、強い相関が認められる。ヒトの検討では、XOR(尿酸産生酵素)の発現は脂肪組織で低く、XORの基質となるヒポキサンチンの産生が高く、肥満で増強される。ヒト高尿酸血症は、脂肪細胞に由来するヒポキサンチンによって大きく影響される」と話された。
Lancetは医学分野の一流雑誌だ。2019年7月18日私の所に、JAS(日本動脈硬化学会)からランセットのプレスリリースのメール
表示が送られて来た。内容は「内臓脂肪型肥満は、1983年CTスキャンによって、松澤佑次教授が率いる大阪大学内科のチームによって、世界で最初に(firstly)明らかになった」と書いてあり、1983年の引用論文として、私たちの"CTスキャンによる体脂肪測定法(
表示Int J Obes 1983; 7: 437-45)"が載っていた。
最近、若手研究者の中には、内臓脂肪はアメリカで発見・研究されたと信じ込んでいる人もいる。内臓脂肪を英文にしてから、36年も経つので、若手研究者が知らないのもわからぬでもない。
「1983年大阪大学内科の松澤佑次率いるチームにより、世界に先駆けて内臓脂肪がCTスキャンによって測定され、研究されたこと」が、Lancet 2019年7月10日号に掲載された。1983年当時は、肥満は皮下脂肪の増加で、内臓脂肪は想定されていなかった。私たちの先駆的な研究が、国際的に認められ、喜ばしく感じた。