コロナ病院看護師の声と命のトリアージ
2020年5月7日、15日ぶりに大阪にある職場に行った。
職場には、郵便物や、大阪府医師会からのFAXが、山のように積まれていた。看護師さんは「テレワークで、自宅で過ごしていた。毎日、新型コロナ感染症指定市立病院に勤務している元同僚看護師達から、ラインがたくさん来た」と言う。
ラインには「昼は緊張して働いているが、夜になると、自分がコロナに感染したかもしれないという恐怖心で、眠れない」、「家族に感染するといけないので、家に帰らず、宿舎に泊まり込んで働いている」、「家で言えないので、ラインで相談している」、「今すぐにでも、病院を辞めたいが、同僚に負担がかかるので辞められない」、「2~3人、辞めたいと言っている看護師がいる」、「看護師と医師は、使命感だけで働いている」、「もう、メンタルが持ちそうにない」などの内容が書かれていたと言う。
私も、阪神大震災の時は、市立伊丹病院を辞めたいと思ったことがある。医師としての使命感で、超多忙な2週間を乗り切った。土日の内科の日当直は、入院・外来を1人でしていた。内科病棟は5階6階東西の4病棟で、180人が入院していた。
1995年1月21日土曜日、5東病棟に呼ばれて行くと、末期肝臓癌の心肺停止患者だった。看護師さんに、「気管挿管をして下さい。まだ、家族の心マッサージや気管挿管をしなくていいという承諾書を取っていません。気管挿管しないと、裁判になった時負けます」と強く言われた。
気管挿管していると、5西病棟の看護師さんが「心不全の患者さんが心肺停止になっています。すぐに来て下さい」と呼びに来た。別の看護師さんが「外来に救急患者が5人待っています。早く来て下さい」と呼びに来た。
5東、5西病棟で気管挿管し、救急外来に行くと高齢者が重い肺炎で、入院させ抗生剤の点滴をした。西宮市から意識消失した若い女性を救急搬送していいか要請があり、地震で市立西宮病院は機能しておらず、引き受けた。伊丹市内の私立病院が倒壊の恐れで50人転院の要請があり、感染病棟を開いて、何人か入院させた。その全てを、私一人で行った。
心肺停止した末期癌患者を優先させるのか、心肺停止した心疾患患者を優先させるのか、重い肺炎の高齢者を優先させるのか、意識消失した若い患者を優先させるのか、トリアージは難しい。東日本大震災では、トリアージを低くされ95歳で亡くなった患者の遺族から、裁判が起こされている。イタリアでは、60歳以上のコロナ患者には、人工呼吸器を付けないことになっている。
阪大医学部の先輩、同級生、後輩医師が、"過労やストレスで命を絶つ"のを見てきた。一部市民の、「市民病院の医師は、市民の税金をかすめ取って高給を貰っている。多く働くのは当然だ」、患者の病状が気になりCCUに来ている医師に「あの先生、いつも日曜日に来てはる。よっぽど閑か、家にいたくないんでしょうね」という心ない言葉に、心が折れる医師もいる。
コロナ病院の看護師さんは、感染症の恐怖と闘いながら、使命感で働いている。メンタル面のサポートも必要だ。新型コロナが感染爆発すると、誰に人工呼吸器を付けるか、命のトリアージを行なわなくてはならない。トリアージの基準を考えておく必要がある。