映画「Fukushima 50」とメディアのあり方
2020年6月27日、兵庫県尼崎市にある"尼崎キューズモール"へ映画「Fukushima 50(フクシマフィフティ)」を観に行った。
午前10時35分、2番シアターG-5席で観賞した。新型コロナ対策のため、座席の前後左右は空席になっていた。館内は、ほぼ満席で、30~40歳代の男女が多い。原作は、門田隆将のノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」で、福島第一原発所長の吉田昌郎(まさお)を渡辺謙が、当直長の伊崎利夫を佐藤浩市が演じている。
2011年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0、最大震度7の巨大地震が起こる。大津波による全電源喪失で、原子炉の冷却装置が停止し、格納容器内の圧力が急上昇する。制御不能になった福島第一原発の暴走を止めるため、原発内に残った50人の作業員たちは、命をかけて戦い続ける。
この映画を観て「福島第一原発事故は、東京を含む東日本壊滅の危機だったこと」を、初めて知った。外国では、命をかけて福島第一原発を守った50人を、「Fukushima 50」と呼んでいる。
東日本大震災が起きた3月11日は、午後10時前に帰宅した。東北地方の津波の様子を見ようとテレビを見たが、民放のA、K、M、Yテレビも、NHKも、全てのテレビが渋谷・新宿・新橋など東京の帰宅困難者の映像を流していた。東北で何が起きているのか放送しているテレビ局は、一つもない。米国のCNNと英国のBBCで、東北地方の津波の状況を見ることができた。「日本のテレビは、東京のローカル局となっている」と強く感じた。
CNNもBBCも数日間、トップニュースで福島第一原発上空の風向きを放送していた。当時、400人の医師でグループメールをしていて、「放射線量が、福島第一原発の北西部で高いこと」を知っていた。
3月19日未明のAテレビ「朝まで生テレビ!」を見ると、「避難区域を30kmがいい、50kmがいい」と延々議論していた。放射性物質は、風向きによって変わるという基本的なことを、司会の田原総一郎も、東京都ナンバー2の猪瀬直樹東京都副知事も知らない。東京の危機管理は大丈夫かと思った。
全国紙論説委員をしている友人に「放射性物質の拡散は、風向きで決まる。何故、政府は報道しないのか」聞くと、「政府は、国民がパニックになり、大混乱になることを怖れているのだろう」と答えてくれた。
5月連休後、福島第一原発で吉田昌郎所長と直接会って話をした人から「福島第一原発は、メルトダウン(炉心融解)している」と聞いた。新聞社やテレビ局の人もその場にいたが、メルトダウンしていることは新聞記事にもならず、テレビでも放送されなかった。
政府が「パニックが起きると困る」という理由で正しい情報を出さないのは、今回の新型コロナの場合も同じだ。2020年6月24日、新型コロナウイルス対策専門家会議の脇田隆字(たかじ)座長は「『無症状の人からも感染する』と表明しようとした所、政府から『パニックになる』と修正を求められた。『1年以上の長期戦』という文言の削除を求められた」と、日本記者クラブで会見されている。
ドイツ在住の知人は「ドイツのメディアに比べ、日本のメディアは自由がない」と言う。日本のメディアは、政府が発表しないことは、わかっていても取り上げない。日本のメディアは、もっと自由に報道するとよい。