映画「けったいな町医者」と平穏死
2021年2月27日、大阪市浪速区にある"なんばパークスシネマ"に映画「けったいな町医者
表示」を観にった。
午後0時20分、館内のほとんどは高齢者で、老夫婦も多い。2500人を看取った兵庫県尼崎市の町医者・長尾和宏医師に迫ったドキュメンタリー映画で、2019年11月中旬から2020年1月中旬まで密着取材し、ナレーションは柄本佑が担当している。
長尾医師が、スマホと聴診器を持って尼崎商店街を歩いて往診に行く場面や、阪急塚口でのクリスマスパーティー会場など見慣れた風景が随所に出てくる。下町の患者や家族との会話が面白い。
在宅医療に行く車の中で研修医に、「がんのエネルギー源は何か」と質問する。長尾医師は「酸素と水とブドウ糖だ。酸素・水・ブドウ糖を与えなければ、がんは増大せず、末期患者は苦しまなくて長生きできる。病院では500~1000㏄の点滴を使っているが、うちでは200㏄の点滴を使っている」と、終末期医療のコツを教える。
長尾和宏医師は阪大2内の10年後輩で、胃腸膵研究室だった。堂島川沿いの阪大病院8階の2内研究室は、循環器脂質研と胃腸膵研が一緒に使っていたので、毎日顔を合わせていた。
映画では、市立芦屋病院が出てくる。長尾君は、市立芦屋病院の後輩でもある。長尾君は尼崎市で開業した時、苦労し悩んでいた。ふっきれたのだろうか、思いっきり在宅医療にのめり込んで行った。私が代表世話人をしていた「阪神インスリン抵抗性研究会」には、毎年出席してくれていた。長尾先生に頼まれ、尼崎市医師会で「肥満」の講演をしたこともある。
1990年代、阪大2内同窓会で長尾君に「徳永先生、御活躍されてますねぇ」と言われた。何の活躍か聞くと「日本医事新報に、肥満の記事を毎年載せていること」だった。日本医事新報は、医学雑誌の中で発行部数が一番多い。2010年代、長尾君は日本医事新報に毎月のように在宅医療の記事を載せ、長尾君も全国区の医師になった。
映画では、国会で梅村聡参議院議員が麻生太郎財務大臣に「終末期医療」について質問し、麻生大臣が答える場面がある。以前、立食パーティー
表示で私が「長尾君は地元の尼崎で人気があり、弁も立つ。平穏死など理想の医療を行うために、国会議員になったらどうか」と言うと、長尾君は「僕は在宅医療が好きなので、政治家にはならず町医者をつづけたい。梅村聡参議院議員
表示を応援して理想の医療を実現したい」と答えた。
映画の最後は2020年1月11日、リーガロイヤルホテル大阪での大阪大学第2内科同窓会から始まる(メタボ教室第757段「阪大2内同窓会」)。垂井清一郎阪大2内名誉教授の隣に座って話していると、携帯電話がかかってくる。尼崎の肺がんで肺気腫の患者が急変する。長尾医師はすぐに看取りに行く。患者は家族に見守られながら、枯れるように安らかに眠っていく。
映画「けったいな町医者」は、尼崎市の在宅医療・長尾和宏医師の日常を、2か月間追いかけたドキュメンタリー映画で、平穏死という重いテーマを扱いながら、笑いあり、涙ありの映画だった。「最後まで自宅で過ごしたい」、「痛くない死に方をしたい」と思う人に必見の映画だ。