時間栄養学と肥満動物モデルの概日リズム
2021年7月10日、大阪市北区にあるホテルグランヴィア大阪で「第17回高尿酸血症・メタボリックシンドロームリサーチフォーラム」が開催された。
午後4時30分、早稲田大学先進理学工学部 電気・情報生命科の柴田重信薬理学教授による特別講演「健康科学に寄与する生体リズムの仕組みにおける時間栄養学」があった。
柴田教授は「2017年に体内時計の研究分野はノーベル医学・生理学賞に輝いた。体内時計を研究する時間生理学は、食・栄養の摂取時間との関係"時間栄養学"として発展してきた。体内時計は脳視床下部に存在する視交叉上核(SCN)の主時計と、それ以外に脳に存在する脳時計、さらに末梢の各臓器に存在する末梢時計に分類される。
体内時計の異常は脂質代謝・インスリン分泌に影響し、肥満や糖尿病のリスクになる。一方、肥満や糖尿病では体内時計の異常をきたす。マウスは同じ摂取量だと、体重は朝のみ摂取より夕のみ摂取の方が増加する。タンパク質は筋肉を作るために必要な栄養素で、1日のうちで朝にとるとその効果が高い。朝から夕方までの運動は推奨するが、夜遅い運動は夜型化や入眠障害になるので止めたほうがよい」と講演された。
私は、南カリフォルニア大学(USC)時代、肥満動物モデルのサーカディアンリズム(概日リズム)を研究していた。視床下部腹内側核(VMH)を破壊したラットは、VMH破壊と同時に過食となり、概日リズムが障害され、暗期(活動期)も明期(休息期)も食べつづけ肥満となった。
一方、視床下部室旁核(PVN)を破壊したラットは、PVN破壊と同時に過食となったが、概日リズムの障害はなく、肥満となった(徳永,他:Am J Physiol 1986
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VMHラットは、VMH破壊と同時に血中インスリンが高くなり、PVNラットはPVN破壊と同時に血中グルカゴンが高くなった(徳永,他:Endocrinology 1986
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VMHラットは運動量が低下し、昼も夜もケージの隅にじっとしている"ものぐさ"で、すぐに噛みついてくる凶暴なラットになった。
しかし、PVNラットは、運動量の低下はなく、暗期に動き明期に動かないという概日リズムが保たれていた(徳永,他:Bull Res Bull 1991
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肥満動物モデルでは共通して過食が認められ、見た目は変わらないが、VMHラット(写真右)のように概日リズムが障害されたものと、PVNラット(写真左)のように正常なものがあった。
概日リズムの障害は、肥満や不眠など健康障害を来す可能性がある。夕食は控えめにし、朝食は炭水化物とタンパク質を十分摂取し、運動は朝から夕方までにすることが、時間栄養学の面から健康によさそうだ。